「脱獄」iPhoneの不正販売で逮捕 ~なぜ商標法?~
「脱獄」iPhoneを不正販売した疑い、少年を逮捕(朝日新聞デジタル2020年3月3日より)
基本ソフト(OS)を改造した米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を不正に販売し、商標権を侵害したとして、京都府警サイバー犯罪対策課などは3日、兵庫県播磨町のアルバイトの少年(19)を商標法違反の疑いで逮捕した。(中略)
OSを改造し、出荷時に制限された操作を可能にする行為は「脱獄」と呼ばれる。(後略)
1.商標法違反による逮捕とは
まず、一般的な商標法違反とはどのような行為なのでしょうか。
商標法違反行為とは、権原なき第三者が、指定商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務に登録商標と同一又は類似の商標を使用すること等をいう、とされています。
まず、「権原なき第三者」とは、「商標権者又はその許諾を受けた者などその登録商標について法的に使用権を持つ者」以外の者をいいます。
「指定商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務」とは、商標登録出願に際して願書に記載する、その出願に係る商標の使用対象となる商品又はサービスそのものか、又は類似する商品又はサービスをいいます。
「登録商標と同一又は類似の商標を使用すること」とありますので、登録商標そのもの使用のみならず、類似の商標の使用も対象となります。
例えば、指定商品を「餃子」として登録されている「ABAC」という商標があるとして、他社が「ABAC」を「餃子」の名前として売り出す場合だけでなく、「ADAC」を「しゅうまい」の名前として売り出す場合も、商標権の侵害となります。
商標権の侵害が認められれば、民事上の違反商標使用の差止請求、不法行為に基づく損害賠償請求ができるようになるうえに、刑事罰の対象にもなります。
罰金刑、懲役刑だけでなく、それらを併科できることも規定されているのです。
ところで、脱獄アイフォンとは、機械(ハードウエア)それ自体には全く手を加えずに、OSだけをいじっただけのもので、見た目は中古スマホを売ることと同じようにも見えます。
中古スマホはご存じのようにいろいろなところで取引されていて、売り出す際に元のメーカーにいちいち許可を取ったりしませんが、商標権の侵害とはなりません。
判例学説上”用尽説”または”消尽説”というものがあります。
一度、商標権者が適法に登録商標を表示した商品を販売した場合には、その登録商標が表示された商品については、商標権は用い尽くされたものと考えるのです。
通常、商品はメーカー→卸売→小売へと順次転売されて消費者の手元に届きます。
登録商標が表示された商品が適法に販売された後も、商標権者が市場を流通する商品の売買に対して商標権侵害を主張できるとすれば、円滑な商取引が妨げられ、商標権者自身の利益も害する可能性があります。
小売り→消費者も、消費者→中古スマホショップ、も適法に販売された後の行為である点に何の違いもありません。
では、なぜOSが改造されたスマホの販売は、商標法違反となるのでしょうか。
2.名古屋高裁判決「Wii商標事件」
ハードウエアの改造を一切行わず、任天堂「Wii」のプログラムを改変したものを販売した行為が商標法違反であるか問われた裁判がありました。
H24(う)第125号名古屋高裁の判決です。
(前略)当初は、商標権者又はその許諾を得た者により、適法に商標が付され、かつ、流通に置かれた真正商品であっても、それら以外の者によって改変が加えられ、かつ、その改変の程度が上記出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているときには、これを転売等して付されている商標を使用することにつき、実質的違法性を欠くといえる根拠が失われていることも自明である。したがって、本件において、原審の主要な争点であり、また、所論も問題としている本件Wiiと真正品との同一性は、その改変の程度が、実質的に出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているかどうかという観点から判断されるべきものと解される。
(中略)
以上の事実関係によれば、本件Wiiは、ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが、被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため、真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。
ところで、ファームウエアは、あくまでソフトウエアであり、ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし、ファームウエアは、(中略)、ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので、かつ、Wiiにおいて、ファームウエアが担う機能について、性質上、メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は、多くの電子機器商品において公知に属する。)から、ファームウエアは、ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると、その改変は、それ自体において、商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。
そして、このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は、もはやいかなる意味においても、付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また、商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては、ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから、需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。
(後略)
つまり、ゲーム機において、プログラムが改変されてしまえば、ハードウエアが改造されていなくても、元の商品と同一ではないため、それに元の商品の登録商標が付された状態で販売すれば、元の商品についての商標権を侵害する、ということです。
3.プログラムの改変は商品の同一性を失わせる
すなわち、ゲーム機において、プログラムが改変されてしまえば、ハードウエアが改造されていなくても、元の商品と同一ではないため、それに元の商品の登録商標が付された状態で販売すれば、元の商品についての商標権を侵害する、ということです。
今回の事件においても、オンラインゲームを有利に進めることのできる不正な「チートアプリ」をインストールした状態で販売していたとのことですので、同じことですね。
ちなみに逮捕したのは、京都府警サイバー犯罪対策課です。
ネット上のハッキング、クラッキング等などだけでなく、ゲーム機・通信機器のプログラムの改変も取り締まるんですね。
そもそも、ゲームは対等に与えられた条件の下で遊ぶから面白いんだと思うんですが、チートアプリでゲームをクリアして喜んでいるって、中学生で、スポーツなどで同じ中学生の間で勝てないので小学生相手に勝負して、勝って得意になっている痛いヤツのやることと同じですよね。
基本ソフト(OS)を改造した米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を不正に販売し、商標権を侵害したとして、京都府警サイバー犯罪対策課などは3日、兵庫県播磨町のアルバイトの少年(19)を商標法違反の疑いで逮捕した。(中略)
OSを改造し、出荷時に制限された操作を可能にする行為は「脱獄」と呼ばれる。(後略)
1.商標法違反による逮捕とは
まず、一般的な商標法違反とはどのような行為なのでしょうか。
商標法違反行為とは、権原なき第三者が、指定商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務に登録商標と同一又は類似の商標を使用すること等をいう、とされています。
まず、「権原なき第三者」とは、「商標権者又はその許諾を受けた者などその登録商標について法的に使用権を持つ者」以外の者をいいます。
「指定商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務」とは、商標登録出願に際して願書に記載する、その出願に係る商標の使用対象となる商品又はサービスそのものか、又は類似する商品又はサービスをいいます。
「登録商標と同一又は類似の商標を使用すること」とありますので、登録商標そのもの使用のみならず、類似の商標の使用も対象となります。
例えば、指定商品を「餃子」として登録されている「ABAC」という商標があるとして、他社が「ABAC」を「餃子」の名前として売り出す場合だけでなく、「ADAC」を「しゅうまい」の名前として売り出す場合も、商標権の侵害となります。
商標権の侵害が認められれば、民事上の違反商標使用の差止請求、不法行為に基づく損害賠償請求ができるようになるうえに、刑事罰の対象にもなります。
罰金刑、懲役刑だけでなく、それらを併科できることも規定されているのです。
ところで、脱獄アイフォンとは、機械(ハードウエア)それ自体には全く手を加えずに、OSだけをいじっただけのもので、見た目は中古スマホを売ることと同じようにも見えます。
中古スマホはご存じのようにいろいろなところで取引されていて、売り出す際に元のメーカーにいちいち許可を取ったりしませんが、商標権の侵害とはなりません。
判例学説上”用尽説”または”消尽説”というものがあります。
一度、商標権者が適法に登録商標を表示した商品を販売した場合には、その登録商標が表示された商品については、商標権は用い尽くされたものと考えるのです。
通常、商品はメーカー→卸売→小売へと順次転売されて消費者の手元に届きます。
登録商標が表示された商品が適法に販売された後も、商標権者が市場を流通する商品の売買に対して商標権侵害を主張できるとすれば、円滑な商取引が妨げられ、商標権者自身の利益も害する可能性があります。
小売り→消費者も、消費者→中古スマホショップ、も適法に販売された後の行為である点に何の違いもありません。
では、なぜOSが改造されたスマホの販売は、商標法違反となるのでしょうか。
2.名古屋高裁判決「Wii商標事件」
ハードウエアの改造を一切行わず、任天堂「Wii」のプログラムを改変したものを販売した行為が商標法違反であるか問われた裁判がありました。
H24(う)第125号名古屋高裁の判決です。
(前略)当初は、商標権者又はその許諾を得た者により、適法に商標が付され、かつ、流通に置かれた真正商品であっても、それら以外の者によって改変が加えられ、かつ、その改変の程度が上記出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているときには、これを転売等して付されている商標を使用することにつき、実質的違法性を欠くといえる根拠が失われていることも自明である。したがって、本件において、原審の主要な争点であり、また、所論も問題としている本件Wiiと真正品との同一性は、その改変の程度が、実質的に出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているかどうかという観点から判断されるべきものと解される。
(中略)
以上の事実関係によれば、本件Wiiは、ハードウエアそのものに何ら変更は加えられていないが、被告人が行ったハックによりファームウエアが書き換えられたため、真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されていることが明らかである。
ところで、ファームウエアは、あくまでソフトウエアであり、ハードウエアであるWiiとは別個の存在と観念できる。しかし、ファームウエアは、(中略)、ゲーム機としてのWiiの機能及び個性を規定するもので、かつ、Wiiにおいて、ファームウエアが担う機能について、性質上、メーカーが提供するプログラム以外のものをユーザーが任意に用いることが予定されていないことも明らかである(このような関係は、多くの電子機器商品において公知に属する。)から、ファームウエアは、ハードウエアとしてのWiiと不可分一体かつ不可欠の構成要素であると認められる。そうすると、その改変は、それ自体において、商品としてのWiiの本質的部分の改変に外ならないというべきである。
そして、このようなファームウエアが改変された本件Wiiの品質の提供主体は、もはやいかなる意味においても、付された商標の商標権者である任天堂であると識別し得ないことは明らかである。また、商標権者である任天堂が配布したものではない非正規のファームウエアによっては、ゲーム機としての動作を保証できないことも明らかであるから、需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていることも疑いを入れない。
(後略)
つまり、ゲーム機において、プログラムが改変されてしまえば、ハードウエアが改造されていなくても、元の商品と同一ではないため、それに元の商品の登録商標が付された状態で販売すれば、元の商品についての商標権を侵害する、ということです。
3.プログラムの改変は商品の同一性を失わせる
すなわち、ゲーム機において、プログラムが改変されてしまえば、ハードウエアが改造されていなくても、元の商品と同一ではないため、それに元の商品の登録商標が付された状態で販売すれば、元の商品についての商標権を侵害する、ということです。
今回の事件においても、オンラインゲームを有利に進めることのできる不正な「チートアプリ」をインストールした状態で販売していたとのことですので、同じことですね。
ちなみに逮捕したのは、京都府警サイバー犯罪対策課です。
ネット上のハッキング、クラッキング等などだけでなく、ゲーム機・通信機器のプログラムの改変も取り締まるんですね。
そもそも、ゲームは対等に与えられた条件の下で遊ぶから面白いんだと思うんですが、チートアプリでゲームをクリアして喜んでいるって、中学生で、スポーツなどで同じ中学生の間で勝てないので小学生相手に勝負して、勝って得意になっている痛いヤツのやることと同じですよね。