起業と商標【バックナンバーのアップロード。 時系列は、表示日付に基づきます。】
起業と商標
最近実際にあった話です。
昨年起業したお客さまに係る件なので、あまり具体的に表現できない点があることはご容赦ください。
ポイントは2つあります。
1つ目は、登記の際の商号決定前に商標調査を行わないと侵害リスクがあること。
2つ目は、知的財産権についての専門家は、弁理士であること、です。
ここんとこ、大事です。
1.商標権の侵害可能性について
お客様を仮にX社とします。
X社の登記上の社名は平仮名4文字です。
仮に、株式会社ABCD(アルファベットは平仮名と思ってください、ややこしいですが)と表します。
会社設立(登記)が行われたのは、2107年の5月です。
この会社の業務と同一の業務を行うY社から、年末に警告書が届きました。
この会社の商号を仮に「株式会社読方漢字」とします。
Y社により、左上に示した商標登録が行われていました。
出願は2016年6月、登録は2017年4月、公報は翌5月に発行されています。
つまり、X社は、登記前にY社の出願を知ることが可能でした。
ちなみに、上記の「読」の読み仮名は「A」、「方」の読み仮名は「B」、「漢」の読み仮名は「CD」、「字」の読み仮名は「EF」です。
X社社名は平仮名だけで、2段書きで観念(意味)を限定されている登録商標との類否は微妙ですが、Y社登録商標の指定役務は、X社の使用役務とほぼ同一で、類比判断、混同可能性は、グレーと言えます。
かつては商号登記は、同一市区町村内で類似のものが認められませんでした。
しかし現在は、同一の住所で同一の商号でない限り認められます。
かつての制度でも商標権の侵害可能性はありましたが、現在の制度では商標権との保護の重複はほぼ皆無といえます。
会社設立後、商標権侵害警告を受けるリスクを避けるためには、同一又は類似の商品・役務(サービス)について、同一又は類似の登録商標(出願中を含む)を調査しておく必要があります。
2.侵害の判断や対応について
今回さらに問題だったのは、侵害警告内容及びその対応です。
Y社の上記登録商標は、Y社がX社に警告を行う8か月も前に、登録されていました。
しかし、Y社の代理人「弁護士」は、出願番号を示して警告を行ってきました。
このような弁護士を代理人にすると、相手が知的財産権について適切な知識を持っていれば、対応が後手後手に回ってしまいます。
「下町ロケット」の佃製作所の最初の顧問弁護士が、そのような人でした。
ところが、X社が最初に対応を依頼した弁護士も、「その程度」の人でした。
しかも自分で判断せず、自分の法律事務所に所属する行政書士に対応させました。
この行政書士は、少なくともY社の代理人弁護士よりはましで、J-PlatPatにより、出願番号から登録を確認することまではできました。
しかし、商標の類否判断を正しい手順で行うことまではしていませんでした。
商標の同市の類否判断は、「外観」、「称呼(読み方)」、「観念(意味等)」をそれぞれ比較して、それらを総合的に判断します。
場合によってはその商標の使用の態様も勘案します。
その法律事務所では、非類似の主張の可能性があることを指摘できませんでした。
さらに、商標法には、「商標権の効力の及ばない範囲」が定められています。
商標法第26条第1項は、以下のように定められています。
第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
X[社は、ホームページ等で「株式会社ABCD」をゴシック体で使用していました。
「株式会社」抜きで「ABCD」だけで用いると「略称」になってしまうので、「著名」でないと26条1項の対象とはなりませんが、「株式会社ABCD」をゴシック体で使用している状態は、「自己の」「名称を」「普通に用いられる方法で表示」されている状態ですので、Y社の商標権は及ばない可能性が高いです。
その法律事務所では、26条1項の抗弁の主張の可能性があることも指摘できませんでした。
3.まとめ
このように、商標権の侵害判断は、専門家が行わないと、危険です。
設立前にきちんと調査しておけば、侵害リスクを避けることができますし、侵害警告に対しても、適切に対応することができます。
侵害を構成していないのに社名変更を行うと、不必要な経費を支出することになってしまいます。
起業の際や、侵害警告を受けた際は、ぜひ弁理士にご相談ください。
最近実際にあった話です。
昨年起業したお客さまに係る件なので、あまり具体的に表現できない点があることはご容赦ください。
ポイントは2つあります。
1つ目は、登記の際の商号決定前に商標調査を行わないと侵害リスクがあること。
2つ目は、知的財産権についての専門家は、弁理士であること、です。
ここんとこ、大事です。
1.商標権の侵害可能性について
お客様を仮にX社とします。
X社の登記上の社名は平仮名4文字です。
仮に、株式会社ABCD(アルファベットは平仮名と思ってください、ややこしいですが)と表します。
会社設立(登記)が行われたのは、2107年の5月です。
この会社の業務と同一の業務を行うY社から、年末に警告書が届きました。
この会社の商号を仮に「株式会社読方漢字」とします。
Y社により、左上に示した商標登録が行われていました。
出願は2016年6月、登録は2017年4月、公報は翌5月に発行されています。
つまり、X社は、登記前にY社の出願を知ることが可能でした。
ちなみに、上記の「読」の読み仮名は「A」、「方」の読み仮名は「B」、「漢」の読み仮名は「CD」、「字」の読み仮名は「EF」です。
X社社名は平仮名だけで、2段書きで観念(意味)を限定されている登録商標との類否は微妙ですが、Y社登録商標の指定役務は、X社の使用役務とほぼ同一で、類比判断、混同可能性は、グレーと言えます。
かつては商号登記は、同一市区町村内で類似のものが認められませんでした。
しかし現在は、同一の住所で同一の商号でない限り認められます。
かつての制度でも商標権の侵害可能性はありましたが、現在の制度では商標権との保護の重複はほぼ皆無といえます。
会社設立後、商標権侵害警告を受けるリスクを避けるためには、同一又は類似の商品・役務(サービス)について、同一又は類似の登録商標(出願中を含む)を調査しておく必要があります。
2.侵害の判断や対応について
今回さらに問題だったのは、侵害警告内容及びその対応です。
Y社の上記登録商標は、Y社がX社に警告を行う8か月も前に、登録されていました。
しかし、Y社の代理人「弁護士」は、出願番号を示して警告を行ってきました。
このような弁護士を代理人にすると、相手が知的財産権について適切な知識を持っていれば、対応が後手後手に回ってしまいます。
「下町ロケット」の佃製作所の最初の顧問弁護士が、そのような人でした。
ところが、X社が最初に対応を依頼した弁護士も、「その程度」の人でした。
しかも自分で判断せず、自分の法律事務所に所属する行政書士に対応させました。
この行政書士は、少なくともY社の代理人弁護士よりはましで、J-PlatPatにより、出願番号から登録を確認することまではできました。
しかし、商標の類否判断を正しい手順で行うことまではしていませんでした。
商標の同市の類否判断は、「外観」、「称呼(読み方)」、「観念(意味等)」をそれぞれ比較して、それらを総合的に判断します。
場合によってはその商標の使用の態様も勘案します。
その法律事務所では、非類似の主張の可能性があることを指摘できませんでした。
さらに、商標法には、「商標権の効力の及ばない範囲」が定められています。
商標法第26条第1項は、以下のように定められています。
第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
X[社は、ホームページ等で「株式会社ABCD」をゴシック体で使用していました。
「株式会社」抜きで「ABCD」だけで用いると「略称」になってしまうので、「著名」でないと26条1項の対象とはなりませんが、「株式会社ABCD」をゴシック体で使用している状態は、「自己の」「名称を」「普通に用いられる方法で表示」されている状態ですので、Y社の商標権は及ばない可能性が高いです。
その法律事務所では、26条1項の抗弁の主張の可能性があることも指摘できませんでした。
3.まとめ
このように、商標権の侵害判断は、専門家が行わないと、危険です。
設立前にきちんと調査しておけば、侵害リスクを避けることができますし、侵害警告に対しても、適切に対応することができます。
侵害を構成していないのに社名変更を行うと、不必要な経費を支出することになってしまいます。
起業の際や、侵害警告を受けた際は、ぜひ弁理士にご相談ください。