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お知らせ

2018-03-07
■ 商標登録異議申立て制度−チバニアン商標について−

 先月は特許異議申立て制度について説明しましたが、今月は商標にもある同様の制度について説明します。
 審査では既存の登録商標を検索するなどして、先行登録商標との類否などの登録要件を審理し、拒絶理由(登録要件の欠如)がなければ、登録査定されます。
 しかし、出願件数の増加により審査資料の量は膨大となり、商標の類否判断も容易でないこともあって、審査官等の過誤により登録要件を具備しない商標に対して商標権が付与される場合もあります。
 このような瑕疵ある商標権の存在は、権利者に不当な保護を与える一方で、第三者が本来自由に使用することができる商標の利用を不当に制限する等の不合理が生じます。
 そこで、登録された商標権の有効性の判断に対し、第三者が改めて判断を問い、商標権を消滅させることのできる制度が設けられています。

1.商標権を消滅させることができる制度
(1) 登録異議の申立て
 審査の延長敵性格のもので、商標が登録され登録公報が発行されてから2月以内に、何人も申立てすることができます。
 審査の延長なので、商標権者には申立ての副本は送達されますが、申立ての理由に対する直接の反論をすることはできません。
 外部からの指摘により、審査官の過誤の有無を、審判官が審理します。
 あくまで先行商標との関係や、公益性の再審理であり、権利の帰属に関する理由は、申立て理由とはなりません。
(2) 登録無効審判
 無効審判は、商標権の消滅後を含め、いつでも請求することができます。
 消滅後も認められるのは、過去の侵害により損害賠償を請求されている場合に、遡及消滅させて、賠償を免れたい場合などがあるからです。
 当事者間の争いを解決するという観点から、民事訴訟のように当事者対立構造をとるため、権利の帰属に関する理由についても、請求の理由となります。
 ただし、いくつかの無効理由では、登録時に無効理由があっても、既存の法律状態を尊重する趣旨から、登録から5年を経過すると、請求することができません。
2.チバニアン商標の一部の指定商品についての取消し決定について
 「チバニアン 「評価をいただき、ほっと」申請の教授ら会見」(毎日新聞2017年11月14日)によりますと、「研究グループは、「チバニアン」を同市在住の個人が商標登録していたことについて、特許庁に異議申し立てを行った結果、出版物に限って商標登録を取り消したことも明らかにした」とのことです。
 「出版物に限って商標登録を取り消した」とは、どういうことでしょうか。
 日本では商標登録出願は、「1商標1出願」と決められており、1出願に複数の商標を含めることはできません。
 一方で、その商標の使用目的を表す「指定商品又は指定役務」は、複数指定することができます。
 登録第5929242号の指定商品又は指定役務は、14類の貴金属等、28類のおもちゃ等に加えて、「16類 紙類,文房具類,印刷物,書画、但し、印刷物を除く」でした。
 これに対し、申立人の「大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構」は、16類の中の「印刷物」に絞って異議の申立てを行いました。
 取消し理由としては、商標法第3条第1項第3号、第6号及び第4条第1項第7号が挙げられました。
 3条1項3号は、商品の品質等を普通に用いられる方法で表した商標等、いわゆる「識別力」のない商標です。
 6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標に該当することで、審査基準には、指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標など、いくつかの類型が挙げられています。
 4条1項7号は、公序良俗に違反する商標で、以下の5つの類型が挙げられています。
 (1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
 なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
 (2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
 (3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
 (4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
 (5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。
 公序良俗違反といっても、わいせつなもの等ばかりでなく、社会通念や国際信義に反するものも該当します。
 具体的には、以下の例が挙げられています。
 @ 「大学」等の文字を含み学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそれがある場合。
 A 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合。
 B 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。
 C 国旗(外国のものを含む)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合。
 D 音商標が、我が国でよく知られている救急車のサイレン音を認識させる場合。
 E 音商標が国歌(外国のものを含む)を想起させる場合。
 つまり、他の取消し(拒絶、無効)理由には該当しないものの、審査官等が登録に社会通根状問題があると判断すると、この理由が適用されます。
 最後の手段とも言うべきもので、濫発されてはならないものであり、適用される例は多くはありません。
 これらの中で、審判官が採用したのは、4条1項7号でした。
3.商標法第4条第1項第7号該当性について
 異議2017-900179の判断は以下の通りです。
・認定された事実。
(1)申立人は,大学共同利用機関法人であって,申立人に属する国立極地研究所を含む国立大学,国立の博物館・研究所及び県立博物館等(共同研究チーム)が,千葉県市原市の養老川沿いで確認された地層(千葉セクション)の研究に取り組んでいること,千葉セクションは,約77万年前に起きた地球の最後の地磁気逆転を示す地層であること,これを,「千葉時代」を意味する「チバニアン(Chibanian)」と定めたこと,そして,千葉セクションは,地質年代の境界を代表する地層として「国際標準模式層断面とポイント」(GSSP)の候補となっており,平成29年6月7日,国際地質科学連合に申請されたこと。
(2)「チバニアン」の名称は,「千葉時代」のラテン語訳であるが,共同研究チームの一員である国立極地研究所が複数の候補の中から選択した造語であること。
(3)「千葉セクション」が国際地質科学連合においてGSSPとして承認された場合には,「チバニアン」と命名され,地質時代の一時代を特定する学術用語となり得ること。
(4)上記(1)及び(3)の事実は,平成27年10月16日から本件商標の登録出願時までに,全国及び地方の新聞及び平成28年3月28日のNHKのニュースで報道され,また,ウェブサイトにおいても紹介され,ウェブサイト上の辞書においても時事用語として掲載されていること等からすれば,我が国において,「チバニアン」の文字は,「千葉セクション」の名称として,一定程度一般にも認識されていたこと。
(5)本件商標は,上記(4)の報道等の後である平成28年8月25日に,本件商標権者により登録出願されたものであること。
・商標法第4条第1項第7号該当性について
 本件商標は,上記第1のとおり,「チバニアン」の片仮名を標準文字で表してなるところ,「千葉セクション」の名称である当該文字は,上記(2)のとおり,共同研究チームに係る造語であって,上記(4)のとおり,本件商標の登録出願日前までに,「千葉セクション」が地質年代の境界を代表する地層(GSSP)の候補として国際機関に申請されることが数多く報道等されたことから,上記(1)及び(3)の事実は,一般に広く知られていたものと認められる。
 そして,「チバニアン」の名称の「千葉セクション」は,国立大学,国立の博物館・研究所等の公共機関による共同研究チームにより,GSSPの候補として国際機関に申請されるなど公益性が高いものであること,「千葉セクション」が,国際機関にGSSPとして承認された場合には,その名称である「チバニアン」の語は,地質時代の一時代を特定する学術用語となることが十分想定される。
 そうすると,本件商標は,これを本件商標権者が第16類「印刷物」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,公的機関である共同研究チームに係る千葉セクション(GSSP)に関する書籍,論文等であるかのごとく,誤認するおそれがあり,ひいては,商取引の秩序を乱し得るおそれがあり,また,社会公共の利益を害することになるものであって,公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。
 したがって,本件商標は,その指定商品中の第16類「印刷物」について,商標法第4条第1項第7号に該当する。
 審査基準の「(5)当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」に該当すると認められたわけです。
 登録第5929242号の指定商品である14類の貴金属等と、28類のおもちゃ等には、異議が申し立てられませんでした。
 もちろん申立人としては印刷物だけ取り消すことができれば十分であったのでしょうが、仮に申し立てたとしても、貴金属やおもちゃにおいて、異議理由が認められたかどうかは分かりません。
 7号の適用には厳格さが求められますから、公益を害するとまではいえないという判断が下される可能性も高いと思います。
 この商標権者は、30類のぎょうざ、しゅうまい等や、32類の清涼飲料水等についても、別途出願しておりますが、これも登録が認められる可能性が高いと考えられます。
 ただ、観光地として大規模に開発されるような場所でもないようなので、果たしてこの商標を使用することでどれだけの収益をあげることができるのかは、未知数です。
 また、「チバニアン」は所定の地質時代の普通名称でもありますので、使用の態様によっては、商標権があっても権利行使が難しくなるかもしれません。
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