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お知らせ

2018-02-07
■ 特許異議申立て制度−いきなりステーキのビジネスモデル特許について−

 特許権は、出願し審査を経て付与されます。
 審査では過去の技術文献を検索するなどして、新規性・進歩性等の特許要件を審理し、拒絶理由(特許要件の欠如)がなければ、特許査定されます。
 しかし、先行技術文献の量は膨大であり、特許要件の判断は技術の解釈が容易でないこともあって、審査官等の過誤により特許要件を具備しない発明に対して特許権が付与される場合もあります。
 このような瑕疵ある特許権の存在は、権利者に不当な保護を与える一方で、第三者が本来自由に実施することができる発明の利用を不当に制限する等の不合理が生じます。
 そこで、登録された特許権の有効性の判断に対し、第三者が改めて判断を問い、特許権を消滅させることのできる制度が設けられています。

1.特許権を消滅させることができる制度
(1) 日本における制度の変遷
 日本では、昭和34年の現行特許法の制定当初から、特許異議の申立て制度と特許無効審判制度を併存させてきました。
 特許無効審判については、ユーザーの利便性の向上や紛争の迅速かつ効率的な解決の観点から数次の見直しがされてきましたが、第三者の知見を活用する特許異議の申立て制度は、早期の権利付与や国際調和の観点から、平成6年の法改正により、権利の付与前に申立てを行う制度から付与後の一定期間に申立てを行う制度に移行しました。
 しかし、当該制度については、異議を申立てた後は、審理中に、申立人に意見を述べる機会が与えられず、異議が認められなかった場合に、申立人が不満を残し、改めて特許無効審判を請求する結果、紛争が長期化し、申立人・権利者双方にとって負担が大きかったので、争いの一回的解決と当事者の負担軽減の観点から、平成15年の法改正により特許無効審判制度に一本化されました。
(2) 異議申立ての復活
 改正により、特許無効審判の請求件数は一時的には増えましたが、その後法改正前の水準に戻ってしまいました。
 特許無効審判制度は厳格な審理が可能である一方、口頭審理を原則としており、当事者の手続負担が大きく、小規模なユーザー等にとっては時間やコストの面で不利であるとの指摘もありました。
 また、日本で特許可能と判断された結果を活用し、海外で簡易な手続で早期の権利化が可能な特許審査ハイウェイ(PPH)の拡大、審査順番待ち期間の短縮化等、日本国内で早期に特許を取得し、日本発の技術を核にグローバルに権利の取得・活用を進めようとする我が国の企業等にとって、好適な環境が整いつつあり、実際に我が国企業等のグローバル出願は急激に増加している一方で、事業展開のために多額の投資を行った後で、特許権が無効となった場合、致命的な損害を受けかねないというリスクを抱えることになります。
 このため、日本において強く安定した特許権を早期に確保することの重要性はますます高まってきました。
 そこで、旧制度の問題を改善しつつ、更に今日的な新たな制度意義を与えるための工夫を行った上で、特許の権利化後の一定期間に特許付与の見直しをする機会を与えるための新たな制度を導入することが適切であるとされ、平成26年の法改正により新たな特許異議申立て制度が創設されました。
2.いきなりステーキの特許商の取り消し決定について
(1) 当該特許権の概要
 「いきなりステーキ」を運営する株式会社ペッパーフードサービスは、平成26年6月4日に「ステーキの提供システム」の特許出願を行い、拒絶理由を受けて補正を行った後、平成28年6月10日に登録を受けました(特許第5946491号)。
 発明の解決しようとする課題は、顧客の好みの量のステーキを、安価に提供するというものです。
 解決手段の最初の部分である「特許請求の範囲」の「請求項1」は以下の通りです。
 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備えることを特徴とする、ステーキの提供システム。
 ところで、特許法第2条第1項では、「発明」という言葉を、以下のように定義しています。
 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
 発明とは、広義にはアイディア全般を含むかもしれませんが、特許法においては「自然法則を利用」するものに限定されています。
 審査基準では、「請求項に係る発明が、自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用しているとき(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)は、その発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない。」とされています。
 留意事項として、「ビジネスを行う方法やゲームを行う方法に関連する発明は、物品、器具、装置、システムなどを利用している部分があっても、全体として自然法則を利用しない場合があるので、慎重に検討する必要がある。なお、ビジネスを行う方法やゲームを行う方法という観点ではなく、ビジネス用コンピュータ・ソフトウエアやゲーム用コンピュータ・ソフトウエアという観点から発明すれば、「発明」に該当する可能性がある。」というように、単なる方法ではなく、ソフトウエアやシステムの形になっていれば、特許法上の「発明」と認められ得る、とされています。
 はて、上記の「請求項1」のどこに、「自然法則」があるんでしょうか。
(2) 特許異議申立てについて
 上記特許権に対し、平成28年11月25日に、異議の申し立てが行われました。
 異議申立て手続きの詳細については割愛しますが、異議申立てを受けた特許権者は、特許請求の範囲に対して訂正請求を行い、権利範囲を減縮して、特許権の消滅を回避しようとしました。
 訂正後の「請求項1」は以下の通りで、下線部が訂正により付加されたものです。
 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しと備え、上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、ステーキの提供システム。
 上記の訂正は適法であるので認められ、訂正後の特許請求の範囲について審理が行われました。
 平成29年11月28日になされた決定は、「特許第5946491号の請求項1〜6に係る特許を取り消す」でした。
 当該特許の請求項は1〜6しかありませんので、特許権全体が取り消される、との決定になりました。
 理由は以下の通りです(下線筆者)。
 本件特許発明1の技術的意義は、お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたものということができる。
 また、本件特許発明1は、(中略)「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」という物を、その構成とするものである。
 (中略)本件特許発明1において、これらの物は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるに過ぎないから、本件特許発明1の技術的意義は、「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」という物自体に向けられたものということは相当でない。
 また、本件特許発明1は、「ステーキの提供システム」という「システム」を、その構成とするものである。
 しかしながら、本件特許発明1における「ステーキの提供システム」は、本件特許発明1の技術的意義が、前記のとおり、経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものに過ぎない。
 してみると、本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成、及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件特許発明1の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。
 したがって、本件特許発明1は、特許法第2条第1項に規定する「発明」に該当しない。
 やはり「自然法則」は利用されていない、と判断されました。
3.決定の影響などについて
 特許権者は、決定の謄本の送達日から30日以内に、特許庁を被告として知財高裁へこの決定の取消を求める訴訟を提起することができますが、その期間が経過すると、決定は確定します。
 原稿執筆時点では出訴があったかどうか確認できませんでしたが、この特許は権利範囲が狭く、同業他社に対する権利行使は困難であったと思いますので、不服申し立ては行わないのではないでしょうか。
 この特許にどのぐらい同業他社に対する威嚇効果があったのかは分かりませんが、たまたま本年1月15日に、肉の量り売りスタイルの「やっぱりあさくま」が都内に開店したのは、この取り消し決定を受けてのものである、という観測もあります。
 決定の謄本の送達は昨年12月12日で、そうすると、取消の確定は本年1月12日ですから、ちょっと早すぎるような気がしますが、今後は同業他社が「遠慮なく」量り売りステーキ店を開業してくるのかもしれません。
 ただ、「いきなりステーキ」は、上記特許の効果で大躍進したわけではないと思いますので、これをもってビジネスモデルの崩壊、ということではないと思います。
 いずれにせよ、単なる「ビジネスモデル」は特許にはなりません。
 うまい商売のやり方を思いついても、それだけでは独占排他権を獲得して同業他社を排除することはできません。
 効果的な「経済活動それ自体」を思いついた場合、それを運用する独自のシステムも構築できれば、特許権を得て同業他社を排除することもできるかもしれませんので、併せて考えることが大事だと思います。
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