HOME > お知らせ

お知らせ

2017-03-10
■ PPAP商標などの「タダ乗り」商標について

 元弁理士による、流行語等の商標大量出願問題。
 「PPAP」等を出願したことで、一般マスコミが(不勉強なままに)飛びつき、そこに当人が取材を受けて、「ビジネスモデル」 であるとのたまったとのことなので、少し説明をしようと思います。

1.出願時に特許庁に手数料を支払わなくても、受理される件
 本来、特許庁への出願手数料は、出願と同時に支払うべきものです。
 ただし、手続の過誤があった場合に、直ちに却下すると出願人に酷なので、手続きについては補正が認められています。
 手数料の不足分も、却下される前であれば、納付することができます。
 元々、郵送で出願した際に、願書に貼る印紙代を間違えたり、印紙をはり忘れたりした人の救済策であり、使用する気のない商標をとりあえず出願して「先願権」を確保させるためのものではありません。
 オンライン手続きで出願する場合、あらかじめ「予納台帳」に印紙代を予納しておき、出願に予納台帳番号を記載する、または、銀行等の「振替口座番号」を記載することで、手数料を納付します。
 オンライン出願を行うと、瞬時に台帳または口座から手数料が引き落とされます。
 しかし、台帳に予納しない、または、振替口座に入金しないでおくと、当然引き落としはできませんが、手続き過誤の救済のために、出願日は確保されます。
 ベストライセンス株式会社は、その救済策を悪用しているわけです。
2.商標に「盗む」という概念はない、という件
 特許や意匠の場合、発明やデザインの創作を行った人に「特許を受ける権利」、「意匠登録を受ける権利」が発生します。
 原則としてこの「創作」によって生じた権利を有する者、すなわち、創作者または創作者からその権利を譲渡された者が、特許や意匠の出願をすることができます(職務発明等に例外規定がありますが、煩雑になるので略します)。
 創作のために費やされた努力に、他人がタダ乗りすることができると、創作意欲が減退し、技術の進歩の妨げになるので、創作者に一定の独占権を与えるのです。
 そこで、例えば特許法には、他人の研究成果を「盗んで」出願するという概念があり、そのような出願は特許を受けることができません。
 しかし、商標の場合、「創作物」としての価値を認められて、登録制度が設けられたのではありません。
 商標法は、他人の信用にタダ乗りをする者のせいで、流通秩序が乱されることを防ぐために定められています。
 商標法では、たとえ商標自体が造語等の創作商標であっても、その語感にセンスがよい、という方向からの評価はされません。
 あくまで、その商標が、商品またはサービスの出所表示標識として機能し、消費者がそのマークに対して信用するようになって、商標には価値が発生するのです。
 例に挙げて失礼かもしれませんが、「フランク三浦」商標を付された時計を、高級品と思う人はいないですよね。
 そういう意味で、商標法には、造語などの「創作」を「盗む」という概念はありません。
 とはいえ、流行語等を商標として出願するという行為は、流行によって生じる「顧客吸引力」にタダ乗りすることにならないでしょうか。
 それは、やはり「他人が創出した価値」を盗んでいるわけです。
 商標法では、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は登録を受けることができないという規定があります。
 その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合並びに商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれる、とされています。
 例えば最近問題となっている、NHK大河ドラマの主人公名などの、歴史上の人物名を出願すると、この規定に抵触する場合があります。
 流行語へのタダ乗りも、公序良俗に反する出願と判断される可能性はあります。
 商標に「盗む」という概念がない、わけではありません。
3.「仮押さえ」という件
 商標法には、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、(中略)標登録を受けることができる」という規定があります。
 この「使用をする商標」という言葉の意味ですが、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」では、以下のように解釈されています。
 指定商品又は指定役務に係る自己の業務が現在又は将来において存在しないのに自己の業務に係る商品又は役務についてその商標の使用をすることは論理的にありえない。指定商品又は指定役務に係る自己の業務が現に存在しないときは、少なくとも将来において指定商品又は指定役務に係る自己の業務を開始する具体的な予定がなければならないと考えられる。また、「使用をする」とは現在使用をしているもの及び使用をする意思があり、かつ、近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。なお、この要件は査定時に備わっていればよい。
 なお、商標の「使用」とは、以下のように定められています。
第2条  (中略)
3  この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
 一  商品又は商品の包装に標章を付する行為
 二  商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 三  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
(レンタカーサービスの自動車や、自動車教習サービスのテキストにマークを付す行為等)
 四  役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(マークを付した食器類、箸袋を用いて飲食サービスをする行為等)
 五  役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(マークを付した食器類を飲食サービスの店内に飾る行為等)
 六  役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為(クリーニングサービスのクリーニング後の衣服にマークを付す行為等)
 七  電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為(ネットショップの画面にマークを付す行為等∵小売役務の提供)
 八  商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
 九  音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
 十  前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
 すべて自ら行う行為であり、「ライセンスを行う」ことは「使用」には含まれません。
 さて、ベストライセンス株式会社には、多岐にわたる業務が現存し、または、将来においてそれらの業務を開始する「具体的」な予定があるのでしょうか。
 ちなみに、商標の審査においては、この「使用意思」を客観的に判断するときに、指定商品または役務の区分ごとに、指定した商品等がいくつの「類似群」に属するか、を基準としています。
 具体的には、1区分につき類似群が8以上となると、1個人または企業に、それだけ多岐にわたる業務があるかどうか疑義があるので、拒絶理由が通知されます。
 それを解消するためには、指定商品等を削除するか、事業計画書を提出して、使用意思の確認を行わなければなりません。
 商標法では、商標権の自由譲渡を認め、使用許諾制度を採用しているので、初めからライセンス目的の出願も許容されるのではないか、という考えもありますが、当初から自ら使用をするものでないものに排他独占的な権利を設定するのは妥当ではありません。
 もちろん、いったん権利が設定された以上はその処分は一つの私的財産権として私的自治に委せた方がよいので、譲渡やライセンスも認められますが、初めからライセンスを目的とする出願は、法の趣旨に反するものです。
4.今後商標権の侵害になる可能性があるという件
 PPAPという商標は、まず2016年10月5日に、ベストライセンス株式会社によって出願され、同年10月14日に、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社によって出願されています。
 エイベックスの出願(後願)で、ベストライセンスの出願(先願)と抵触した指定商品の区分は、第9類、第16類、第28類です。
 9類では、 後願の40の類似群すべてが先願と抵触しました。
 16類では、後願の21の類似群中、6群が抵触しました。
 28類では、 後願の11の類似群すべてが先願と抵触しました。
 16類は、紙、紙製品及び事務用品であり、先願は類似群が6だけなので、一応拒絶理由の対象ではありません。
 ただし、他の区分で8群以上のものが多いので、16類の対象商品を分割出願した方が、登録を受けやすいでしょう。
 9類や28類については、使用意思の確認を求められます。確認されなければ、登録を受けることができず、当然侵害とはなりません。
 また、出願分割は、適法に行われないと、出願日が元の出願の日から繰り下がり、実際の出願日となってしまいます。
 そうすると、これから分割すれば、先願と後願が入れ替わる可能性もあります。
 ベストライセンス株式会社の分割出願は、必ずしも適法に行われていないとの情報もあります。
5.「ビジネスモデル」であると主張している件
 パテントトロール、というビジネスがあります。
 特許権を買い集めて、その特許権に係る発明を実施している企業等から、損害賠償やライセンス料を受け取るという仕組みです。
 この場合特許権は適法に譲渡されています。
 そして、特許権が存在するということは、その発明が新規性・進歩性を備えていて、かつ、他人が実施したということは、その発明に有効な効果があるということです。
 しかも、特許公報が発行されて権利の内容は公開されていますから、他人の特許発明を実施していた場合、少なくともその侵害には「過失」が推定されます。
 適法に取得した権利を、適法に行使しているのですから、ビジネスモデルとして認定して良いと思います。
 ベストライセンス株式会社は、その商標版のビジネスモデルだ、といいたいのでしょうが、そうではないと思います。
 流行語等の「顧客誘引力」を備えていそうな言葉を「先取り」しようとしているわけですから、「創作的価値」を有する「特許権」を適法に取得しているパテントトロールとはわけが違います。
 他人の流行語等のもつ「顧客誘引力」を、不当に利用する行為は、民法709条の不法行為に該当する可能性があるもので、ビジネスモデルが当然備えるべき「適法性」に疑義があります。
 さらに、何万件もの出願において、手数料の不納により却下処分を受けているわけですが、処分を行う前の通知や、処分の通知には書類作成費用と郵送料がかかり、処分を行う特許庁職員の人件費もかかっています。
 手数料が支払われていないのですから、これは国庫、すなわち税金から支出されることになります。
 こういうことを前提とした仕事の仕組みを、「ビジネスモデル」と認めることはできません。

※ 使用したい商標について、ご心配なことがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

朝陽特許事務所 お問い合わせ−特許、実用新案、意匠、商標、著作権、不正競争防止法等、知的財産についてのお問い合わせ。

朝陽特許事務所のご案内

朝陽特許事務所(ちょうよう)−東京都港区にある特許事務所。

■ 当事務所は、社内に独立した知財部門を設けることが難しい中小企業向けの特許事務所です。

<取扱業務>
・ 特許・実用新案・意匠・商標の出願代理
・ アイディア活用等のご相談
・ 知的財産権の活用コンサルティング
・ 知的財産権等についての講演・セミナー講師

<所在地>
〒105-0003
東京都港区西新橋1-22-4
Space R 3階
TEL 03-6457-9671
FAX 03-6457-9672
URL http://www.choyo-pat.jp

 大きな地図で見る