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お知らせ

2017-02-08
■ かに道楽訴訟の和解に見る “先使用権認定のハードルの高さ”

 今月も、「商品・パッケージの保護」シリーズをお休みして、タイムリーな話題についてお伝えします。

1.最近問題となった事例
 下記のような問題が報道されました。
 毎日新聞2017年1月5日 07時30分
 訴訟和解
 かまぼこ「かに道楽」やめて 愛知の会社と合意
 大阪・道頓堀のカニ料理専門店「かに道楽」(本店・大阪市中央区)が店名と同じかまぼこを販売する愛知県豊橋市の食品会社「ヤマサちくわ」を相手取り、名前の使用差し止めなどを求めた訴訟が、大阪地裁で和解したことが分かった。昨年12月22日付で、ヤマサちくわが「かに道楽」の名称を使用しないとの内容で合意した。
 訴状などによると、かに道楽は1962年、道頓堀に1号店を開いた。72年に「かに道楽」の商標を出願し、83年に登録された。近畿地方や東京を中心に全国で40店舗以上展開している。
 ヤマサちくわのホームページなどによると、同社は1827年に創業。1970年から東海地方で「かに道楽」というカニ身入りのかまぼこを販売している。
 訴訟で、かに道楽側は「ヤマサちくわは消費者にかに道楽の商品だと混同させ、商標権を侵害している」と主張。ヤマサちくわ側は「かに道楽が商標権を取得する前から商品名に使っており、侵害には当たらない」と反論していた。
 和解調書では、ヤマサちくわ側は「かに道楽」と表示した商品をすべて廃棄する。かに道楽側は45万円の損害賠償請求を放棄した。かに道楽の担当者は和解を認めたうえで、「コメントすることはない」と述べた。ヤマサちくわの担当者は「取材には応じられない」とした。
2.請求の根拠となる権利
 記事によれば、「ヤマサちくわ株式会社」が商標「かに道楽」の使用を開始したのが1970年で、「株式会社かに道楽」が商標「かに道楽」の出願をしたのが1972年。
 「株式会社かに道楽」が商標権の侵害を主張したのに対し、「ヤマサちくわ株式会社」は、先使用権を主張したわけですが、「株式会社かに道楽」の出願前に、先使用権を獲得できるほどの周知性を獲得できなかったので、商標使用の中止を認める和解をした、というように読めます。
 まあ、2年ぐらいで、ローカルだから仕方ないかな、と思った次第ですが、一応請求の根拠となった商標権の存在を確認してみることにしました。
 すると、記事にあるような1970年出願で現在権利存続中の「かに道楽」を含む商標が見つからないのです。
 「株式会社かに道楽」が所有する、商標の構成中に「かに道楽」を含む商標は以下の6件です。
(1)

 商標登録第1663349号 (1981年2月23日出願 1984年2月23日登録)
 指定商品
 32類 ビール
 33類 日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒
(2)

 商標登録第2606211号 (1990年4月11日出願 1993年12月24日登録)
 指定商品
 29類 食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物
 31類 食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜,果実,コプラ,麦芽
(3)

 商標登録第3032513 号(1992年6月30日出願 1995年3月31日登録)
 指定役務
 42類 かに料理・活魚料理・中国料理の提供
(4)

 商標登録第3367764号 (1994年2月25日 1997年12月26日登録)
 指定役務
 42類 かに料理・活魚料理・中国料理の提供
(5)

 商標登録第5437846号 (2010年11月1日出願 2011年9月9日登録)
 指定商品
 1類 化学品,植物成長調整剤類,肥料,人工甘味料,原料プラスチック
(6)

 商標登録第5689226号 (2013年4月25日出願 2014年7月25日登録)
 指定商品
 29 類 食用油脂,乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,かにみその缶詰,その他の加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,かにぞうすいのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく
 30類 アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー,ココア,氷,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,かに酢,ぽん酢,しょうゆだし,その他の調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,パスタソース,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン,食用粉類
 31類 生花の花輪,釣り用餌,ホップ,食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜,糖料作物,果実,麦芽,あわ,きび,ごま,そば,とうもろこし,ひえ,麦,籾米,もろこし,飼料用たんぱく,飼料,種子類,木,草,芝,ドライフラワー,苗,苗木,花,牧草,盆栽,獣類・魚類(食用のものを除く。)・鳥類及び昆虫類(生きているものに限る。),蚕種,種繭,種卵,漆の実,未加工のコルク,やしの葉
3.商標権の行使とは
 「ヤマサちくわ株式会社」が商標「かに道楽」の使用をしていた商品は、カニ肉入りのかまぼこのような食品です(現在は「かにづくし」という商品名で販売されています)。
 すると、上記2.の登録商標のなかで、(2)、(6)しか指定商品の抵触はありません(指定商品中ゴシック太字で示した加工水産物)。
 加工水産物を指定商品に含まなければ、その登録商標の商標権は、当然ヤマサちくわの商品には及びません。
 さて、請求の根拠とされたのは、どちらの商標権だったのでしょうか。
 ここでおさらいですが、商標権の行使の内容は、大きく分けて2つです。
 まず、商標法第36条に基づく使用の差止め請求をすることができます。
 これは、侵害者が現在も登録商標と同一又は類似の商標を、その指定商品・役務と同一又は類似の指定商品・役務について使用する場合の対抗策です。
 次に、損害賠償を請求することができます。
 商標権の侵害は「不法行為」であり、侵害には過失が推定されるので(商標法第39条準特103条)、民法第709条の規定により、侵害により生じた損害の賠償を請求することができます。
 報道によれば、ヤマサちくわ側は「かに道楽」と表示した商品をすべて廃棄する(つまり今後も使用しない)とのことですから、差止の要求は通ったわけです。
 つまり、「かに道楽」という「加工水産物」を指定商品とする有効な商標権が存在し、先使用権が認められなかった、ということです。
 一方、かに道楽側は45万円の損害賠償請求を放棄したとのことですが、このことから直ちに、損害の発生が否定されるわけではありません。
 和解で差止ができるのだから、このくらいの額は放棄してでも和解してしまった方がよい、と判断した可能性もあります。
 それよりも注目すべきは、その請求額です。
 別の報道(産経WEST2016.11.8 05:30)によれば、当初請求した損害額の算定については、
 また「『かに道楽』の著名性を考えると、被告に故意または過失があったことは確実だ」とし、名称使用に対して練り物会社から受け取るべき金額は「売上高の5%はくだらない」と指摘。かまぼこの販売価格600円(税抜き)の年間販売個数を約5千個と試算して、過去3年間の損害賠償45万円の支払いも請求した。
 としたとのことです。
 「ライセンス料相当額」の請求と考えられますが、期間を3年としたことが重要です。
 2.(2)は、1993年12月24日登録、(6)は2014年7月25日登録で、債権の消滅時効は10年ですから、(2)を根拠に損害賠償を請求するなら、期間を10年として算定したはずです。
 そこで、請求の根拠となっていた商標権は、(6)であったことが分かります。
 実際は3年間ではなく、2年半弱というところでしょうか。
4.先使用権のハードル
 繰り返しになりますが、(6)の出願は、2013年4月25日でした。
 ヤマサちくわが「かに道楽」の使用を開始したのは1970年とのことですから、その先使用権は、44年使用しても認められなかったのです。
 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説によれば、商標法第32条の先使用権は、未登録周知商標についての保護規定であり、ここに「広く認識された」範囲は、4条1項10号の範囲と同様であると考えられる、としています。
 審査基準によれば、4条1項10号の範囲は、
 最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。
 とされています。
 もっとも、裁判例では、4条1項10号の範囲と同様までは求めなくてもよい、というものもあります。
 ゼルダ事件控訴審(東京高等裁判所 平成3(ネ)4601 平成5年07月22日)では、以下のように判示されています。
 商標法32条1項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない
 そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。
 かような事実に鑑みれば、同項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法4条1項10号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである。
 「取引の実情」では、商標の使用期間、売上額、広報宣伝方法、実際の使用態様などが考慮されます。
 商標登録の内容は以下の通りです。
 商標: 
 商標登録第2012648号
 出願 1980年8月4日
 登録 1988年1月26日
 存続期間満了・消滅 2008年1月26日
 それに対し、先使用権を主張した商標の内容は、以下の通りです。
 商標: 
 使用開始時期:1979年3月ごろ
 使用状況:1979年8月当時直営店8店舗、フランチャイズ店27店舗
 売上高:1979年11月〜1980年8月当時約2億円(1979年のアパレル46社の総売上高4628億円)
 宣伝方法:商品展示会、ファッションショーの開催、その案内状の発送、ダイレクトメールの発送等
 周知性:被控訴人は、株式会社ブローニュの本件登録商標に係る商標登録出願の日である昭和55年8月4日前から、日本国内において、不正競争の目的でなく、右商標登録出願の指定商品の範囲に属する婦人服について被控訴人標章の使用をしていた結果、右商標登録出願の際、現に、被控訴人標章が被控訴人の業務に係る商品を表示するものとして「需要者」としての婦人服のバイヤー、すなわち問屋や一般小売業者の間で広く認識されていたものと認められる。
 周知性に関する個別事情:デザイナーブランドの場合、その対象とする層によって、多数の消費者に販売することが必ずしも目的とはならず、その売上げの多寡がブランドの著名性と結びつくとは限らないことが認められる。(中略)約9か月間約2億円の売上高はデザイナーブランドとしてその周知性が認められないほど僅少であると認めることはできない。したがって、「ゼルダ」ブランドの婦人服の売上高が右のレディスアパレル46社の同年における総売上高の合計額に比して僅少であることをもっては、先使用権成立の要件である周知性の存在を左右するに足りない。
 デザイナーブランドの場合、その売上げの多寡がブランドの著名性と結びつくとは限らない、という点が考慮されています。
 しかし、1971年に設立され、1980年には年間売上100億円を突破し、現在173億円という「かに道楽」に対し、ヤマサちくわの「かに道楽」の売り上げは、せいぜい年間600万円、仮に44年間同額の売り上げとして、2億6千400万円です。
 また、水産加工物の「ねり製品」の年間生産量が50万t弱であるのに対し、ヤマサちくわの「かに道楽」の生産量は多く見積っても70kg程度で、「吉兆」や「久兵衛」というような著名ブランドではないことを考慮すると、先使用権が認められる判決を勝ち取ることはできないようなので、和解が成立した、と考えるのが妥当だと思います。
 地元で作って周辺で売るものについては、先使用権の確保が困難で、後から類似の商標を類似の指定商品等について登録された場合、侵害になってしまいます。
 損害賠償は請求されないとしても、商品名の変更にはかなりの費用がかかります。
 転ばぬ先の杖として、商標登録出願のご検討をお勧めいたします。
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