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お知らせ

2017-01-17
■ 商標と歴史上の人物名・元号−商標審査における取扱いについて−

 今月は、「商品・パッケージの保護」シリーズをお休みして、タイムリーな話題についてお伝えします。

1.最近問題となった事例
 下記のような問題が報道されたのは、記憶に新しいと思います。
 2017年1月3日産経新聞
「お土産に使えないなんて」…『直虎』商標、誰のものか
浜松市が特許庁に異議、歴史上同名も 
 今年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放送開始を前に、舞台となる浜松市が「直虎」の商標をお土産品などに自由に使えず頭を抱えている。主人公は井伊直虎だが、他の地域にも「直虎」の名の歴史的人物がおり、既に商標が登録されていたためだ。
 浜松市と地元の商工会議所は「一つの地域が独占すべきではない」と特許庁に異議を申し立てている。
 登録したのは浜松市の会社のほか、長野県のみそ醸造会社。長野の会社が念頭に置いたのは長野県須坂市の藩主「堀直虎」だった。平成29年に没後150年イベントが開かれるのに合わせて地元のPRに役立てようと27年12月に出願し、登録された。「異議申し立ての文書が届いた時には寝耳に水だった」と驚きを隠さない。
 特許庁は、フルネームばかりでなく名前の一部でも「家康」のように大半の人が人物を特定できる場合は商標の登録を控えているが、「直虎」は特定の人物を示さないと判断したようだ。
 浜松市による商標登録異議申立ての対象となっているのは、以下の2件の商標です。

 歴史上の人物名の商標登録について、商標の審査基準等を元に、説明します。
2.歴史上の人物名に関する従来の審査
 現行の商標法において、現存する者以外の人物名の商標については商標法上に当該商標の登録を禁止する「明文の規定」は存在していません。
 例えば、人名等についての商標登録の要件として商標法4条1項8号が存在しますが、同号は人格権保護の規定であって、現存する者の保護を目的とするものに限られています。
 また、他人の周知・著名な商標の保護の規定として商標法4条1項10号、同15号及び同19号も存在しますが、これらは他人の商品又は役務の出所を表示する周知・著名な「商標」の保護の規定であって、「商標」として周知・著名なわけではない歴史上の人物名等の商標登録をこれらの規定を適用して拒絶することは困難です。
 実際、没後間もなかったり、配偶者が生存中といった限られた事例を除くならば、歴史上の人物名の出願の多くが登録されています。例えば、「家康」(登録第22939号、昭和33年登録 30類干菓子,蒸し菓子,洋菓子,いり栗,パン)、「石川啄木」(登録第605542号、昭和38年登録 28類酒類)等です。
3.現在の審査基準
 現在の審査基準では、歴史上の人名は、商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するとして、拒絶されることになります。
 審査便覧の記載は以下の通りです。
1.歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、次に係る事情を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断することとする。
 (1)当該歴史上の人物の周知・著名性
 (2)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
 (3)当該歴史上の人物名の利用状況
 (4)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
 (5)出願の経緯・目的・理由
 (6)当該歴史上の人物と出願人との関係
2.上記1.に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。
 以下に、この基準が定められるにいたった理由等を説明します。
 1.歴史上の人物名を巡る状況
 (1) 歴史上の人物名を巡る諸事情
 周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有します。
 その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられ、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられます。
 このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられます。
 一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できません。
 このような諸事情の下、周知・著名な歴史上の人物名についての商標登録に対しては、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するおそれがあるとの懸念が指摘されていました。
 (2) 審査の状況
 歴史上の人物名に係る商標であっても、具体的な事情に応じて拒絶理由を定める規定に該当する場合には拒絶されます。
 しかし、前述したように現行の商標法においては、現存する者以外の人物名の商標登録を排除するための明文の規定は存在しません。
 人格権保護の規定である商標法第4条第1項第8号は、現存する者の保護を目的とするものに限られます(平成17年6月30日 知財高平成17年(行ケ)第10336号より)。
 「商標法4条1項8号は,『他人の氏名…を含む商標』は商標登録を受けることができない旨規定する。同号は,『その他人の承諾を得ているものを除く。』と定めているから,同号にいう『他人』は,生存ないし現存するものに限られると解するのが相当である。」と判示されており、生存・現存しないものは「承諾」することができないからです。
 また、他人の周知・著名な商標の保護の規定として商標法第4条第1項第10号及び同第19号が存在しますが、これらは他人の商品又は役務の出所を表示する周知・著名な「商標」の保護の規定であり、「商標」として使用された結果周知・著名となったわけではない歴史上の人物名からなる商標についてこれらの規定を適用して拒絶することは困難です。
 同第15号も、歴史上の人物名と商品又は役務の関係等を考慮すると、商品又は役務の出所の混同を生ずる場合が多いとは考え難いです。
 さらに、同種の商品又は役務について多くの事業者が慣用している事実があるならば商標法第3条第1項第2号も考え得るところですが、そのような事実が認められるのはむしろ稀なケースです。

 2.近時の判決等の動向
 商標法第4条第1項第7号に関する審査基準においては、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるとされています。
 近時の判決においても、私的な利害の調整や私益に関する紛争は同号の適用に関する問題ではないとした上で、商標自体が公序良俗に反するものでなくても、出願の経緯や目的に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するような場合には、商標法第4条第1項第7号に該当する旨判示するものがあります。
 特に、このような動向に沿った判決として、公共的な観点を踏まえ、公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってしたものとして、公正な競業秩序を害し公序良俗に反するとした事案があります。
 「母衣旗」事件(平成11年11月29日 東京高裁 平成10年(行ケ)第18号)は、当該商標が、福島県にある町の経済の振興を図るという公益的な施策に便乗して、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、「母衣旗(ほろはた)」名称による利益の独占を図る意図で出願したものとされた判決です。
 以下のように判示されました。
 「原告による、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、指定商品が限定されるとはいえ、該施策の中心に位置付けられている「母衣旗」名称による利益の独占を図る意図でしたものといわざるを得ず、本件商標は、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものというべきである。」

 3.具体的な運用方針
 (1) 対象となる「歴史上の人物名」
 本取扱いにおける「歴史上の人物」には、現存する者は含まれず、周知・著名な実在した故人をいい、外国人も含まれます。また、「人物名」には、フルネーム(正式な氏名)も、また、略称・異名・芸名等も含まれ得ますが、いずれも特定の人物を表すものとして広く認識されているものでなければなりません。
 (2) 審査の方法
 本取扱いは、例えば、前記1.(2)に述べた他の拒絶理由が該当する案件をも対象にしようとするものではなく、当該他の規定に該当しない場合の取扱いです。
 他の拒絶理由が該当する場合には、そちらを優先適用します。
 商標審査基準では、商標法第4条第1項第7号について「商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする」としています。
 取扱いの1.では、歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては特にその趣旨に留意し、次の@ないしEの事情を総合的に勘案し、商標法第4条第1項第7号を適用すべきか否かを判断することとしています。
 その上で、取扱いの2.においては、近時の判決等の動向を踏まえ、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした出願」については、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当することとしています。

 @ 当該歴史上の人物名の周知・著名性
 本取扱いは、周知・著名な歴史上の人物名を対象とするものであり、その歴史上の人物名の名声、評価、顧客吸引力の高さに関する貴重な情報であるのはもちろん、さらには、出願人の認識(歴史上の人物名の名声等を承知していたか否か、便乗を目的としていたかなど)を判断するための情報の一つにもなり得るものと考えられる。
 A 当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
 本事情は、特定の一私人の認識というよりも、広く国民や地域住民が全体的にいかに当該歴史上の人物を捉えているかという観点での事情をいう。例えば、広く国民の敬愛を集めている、あるいは、当該歴史上の人物が当該人物の出身地、ゆかりの地等において親しまれている等の事情によって、国民や地域住民全体にあたかも「共有財産」の如く認識されているような場合には、商標登録に対し国民や地域住民全体の不快感や反発を招くことも考え得る。このため、国民又は地域住民が歴史上の人物名をいかに認識しているかは、社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に反しないか否かの重要な情報となり得るものといえる。これらは、次に挙げるBの利用状況を通じて明らかになることも考えられる。
 B 当該歴史上の人物名の利用状況
 歴史上の人物名について、例えば、当該人物の出身地、ゆかりの地等における利用状況は、商標法第4条第1項第7号を適用すべきか否かの判断において極めて重要と考えられる。特に、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が当該人物に関連する祭り・イベントの開催、博物館・展示館の運営、当該人物をシンボルとした観光案内等を行っているなどの事情、さらには、それら機関の振興策の下で当該人物名を使用する事業者が多数存在するなどの事情等は、本取扱いの2.における公益的施策や公益性に関する判断をするための貴重な情報の一つになり得ると考えられる。
 C 当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
 当該歴史上の人物名の利用状況との関係において、その使用に関係する商品又は役務と指定商品又は指定役務との関係も重要な情報となり得る。例えば、それら商品又は役務が指定商品又は指定役務と同一又は類似の関係にある場合は、上記Bに述べた使用に商標権の効力が及ぶ可能性があり、出身地、ゆかりの地における利用への影響が懸念される。また、土産物や当該地域の特産品など観光客を対象としたものといえる商品又は役務等との関係では、特に上記Bの利用状況への便乗も懸念されるところである。さらに、指定商品又は指定役務の具体的内容によって、国民や地域住民の不快感や反発も異なってくるものと思われる。このため、これらの事情は、公共的利益を損なうか否か、利益の独占を図ろうとするものであるか否か、さらに、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれがあるか否かを判断するための貴重な情報の一つになり得ると考えられる。
 D 出願の経緯・目的・理由
 出願人が出願に係る商標を採択した理由、出願人による出願に係る商標の使用状況、その商標としての周知・著名性は、出願の経緯や目的、さらには、その出願又は登録が公正な競業秩序を害するものであるか否かを判断するための背景として貴重な情報の一つと考えられる。
 E 当該歴史上の人物と出願人との関係
 当該歴史上の人物や上記Bに挙げた使用に係る者と出願人との関係は、出願の目的、経緯のほか、社会公共の利益に反するか否か等を検討する上で、貴重な情報の一つと考えられる。
 なお、その場合には、当該人物が亡くなってどの程度の期間を経過しているのかも総合的に勘案して検討することが必要と考えられる。

 (3) 「直虎」の判断
 「おんな城主 直虎」の制作発表は、2015年(平成27年)8月25日に行われました。
 周知性の判断は、この日が基準となると考えられます。
 ちなみに、株式会社NHKエンタープライズによる「おんな城主 直虎」なる商標は、その前日に出願されています。
 浜松市による異議申立ての対象となった商標は、ともにその日よりは後の出願となっています。

 有限会社モークの場合、製作発表の3日後なので、既にほとんど準備があっていたことも考えられます。
 もちろん、3日の余裕があれば、出願準備は十分可能ですが。
 なにしろ、同社は「家康・直虎 新商品開発プロジェクト」に参加している浜松の地元企業です(http://www.tosho-ieyasu.jp/about/)。

 有限会社糀屋本藤醸造舗の場合は、上記より時間が経過していますが、別な事情が存在します。
 同社が存在する長野県須坂市においては、直虎といえば「堀直虎」(江戸時代末期の大名で信濃須坂藩の第13代藩主。若年寄、外国総奉行などを務めた)です。
 NHK大河ドラマの主人公の地元になった、ということは、当該地元では大事件でも、他の地域では、関心が低いことも十分に考えられます。
 登録異議申し立てというのは、岩暴審査のやり直しですから、申立人等が申し立てない理由についても審理することができますので、堀直虎を理由に、取り消されるかもしれません。
4.元号と商標
(1) 拒絶理由
 元号の場合は、公序良俗違反の4条1項7号ではなく、識別力を問題とする3条1項6号で拒絶されます。
 6号は、1号から5号に具体的に示された「識別力のない商標」には該当しないけれど、やはり識別力のない商標登録を受けることができないとする規定です。
 もっとも、元号の場合は、指定商品・役務との関係で「識別力がない」というよりも、何人も使用を欲するものであり、独占になじまない、すなわち「独占適応性」のない商標であると言えると思います。
 同号の審査基準において、
 商標が現元号として認識される場合(「平成」、「HEISEI」等)は、本号に該当すると判断する。
 となっています。

 「現元号」となっていますので、過去の元号は登録を受けることができます。
(2) 過去の元号の登録例
 「明治」と「大正」については、文字のみで構成される商標がかなり存在します。
 しかし、その大半は、社名に「明治」、「大正」を含む会社によって出願されています。
 当然のことですが、「明治」は大正以降、「大正」は昭和以降に出願されています。
 「昭和」もやはり、社名に「昭和」を含む会社による登録がほとんどですが、文字のみで構成される商標は少なく、図形との組合せや、「昭和」以外の文字との組合せが多くなります。
 図形との組合せによるものは、昭和の内に登録を受けることができたものもあります。
 ネットで検索してみると「株式会社平成」という商号の会社は存在していますので、それらの会社が出願することは考えられます。
 審査終了の段階で該当していなければ登録を受けることができるので、同業者間では、出願時期について、先願争いが起こることでしょう。
(3) 未来の元号
 報道によれば、カレンダー業界等の便宜のため、時期元号は、改元より前に発表されるとのことです。
 あくまで、生前退位が法制化されることが前提のお話ではあります。
 すると、その元号が「現元号」には該当しないので、登録を受けることができるのか、という問題が発生することもあり得ます。
 ただし、その程度のことを経済産業省や特許庁が見落とすはずがないので、審査基準は尊様な事態に対応して改正されることでしょう。
 審査基準は法律ではありませんから、国会での審議は必要ありません。
 そのような規定のない「商号登記」においては、新元号発表後、それを冠した新会社が出てくると思います。
 ただ、会社を立ち上げるには、その対象となる事業があるわけですから、発表日にいきなり登記申請が集中することにはならないのではないでしょうか。
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