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お知らせ

2016-09-12
■ 包袋禁反言−権利範囲の解釈−

 アップルのサプライヤーだった島野製作所が、2014年8月にアップルを東京地裁に提訴した事件は、ご記憶にあると思います。
 まず8月1日に、独占岸法違反で、そして6日に特許権侵害で提訴しました。
 独占禁止法については、島野製作所が裁判籍を日本にする中間判決を勝ち取りましたが、実質的な審理はこれからです。

 特許権侵害についてですが、1審では、島野製作所の敗訴となりました。
 先月は「特許請求の範囲の記載」について述べましたが、今月は記載された特許請求の範囲の「解釈」について、述べたいと思います。

1.対象特許の記載
 島野製作所は、特許第5449597号の発明が侵害されたとして訴えました。
 特許請求の範囲の請求項1は以下のように記載されています。
【請求項1】(下線部は補正された部分)
 管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し、
 前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に、押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。
 では、補正前の請求項1、2を見てみましょう。
【請求項1】
 管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケースの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し、前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付ける押付部材を前記コイルバネと前記大径部の端面との間に介在させたことを特徴とする接触端子。
【請求項2】
 前記押付部材は少なくとも前記端面に当接する球状面を含むことを特徴とする請求項1 記載の接触端子。

 特許公報の請求項1「押付部材の球状面からなる球状部」は、公開時の請求項1の「押付部材」を、請求項2の「少なくとも前記端面に当接する球状面を含む」によって、減縮補正したものですから、適法な補正といえます。
 したがって、上記の図面で30で示される「押付部材」は、図面では球状となっていますが、23で示される凹穴に押し付けられる面だけが球状面であれば、上側はどのような形でも権利範囲にあるといえます。
 これを頭に入れたうえで、下に掲げるアップル社の製品の図を見てください。
上記の図の30にあたる部分に、コマ型の部品が入っていますが、この部品の下側の面は球状面となっています。

 この図を見ると、アップル社の製品は、上記の島野製作所の特許の、請求項1に記載されている発明の、構成要件のすべてを満たしているように見えます。
 ではなぜ、島野製作所は敗訴したのでしょうか。
2.特許出願の分割
 特許法44条により、2以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とするができます。
 「特許出願の一部」となっていますので、元の出願に含まれていいない発明を、分割して新たな特許出願とすることはできません。
 分割による新たな出願は、元の出願の出願日に出願したものとみなされるので、元の出願に含まれていない発明に出願日の利益を与えるわけにはいかないからです。
 なぜ唐突にこんな話をしたかというと、実は特許第5449597号(特開2013-148594)は、特開2013-068593を分割したものだからです。
 では、特開2013-068593の特許請求の範囲を見てみましょう。
【請求項1】
 本体ケースに設けられた非貫通長穴に挿入したプランジャーピンの該本体ケースからの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって、
 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記非貫通長穴の内面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有する段付き丸棒であり、前記大径部の端部からその長手方向に沿って前記大径部の少なくとも側面部の一部を残すように切削部を与えて前記切削部内に少なくとも絶縁表面を有する絶縁球を収容し、
 前記非貫通長穴と前記絶縁球との間にコイルバネを介在させて前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように付勢していることを特徴とする接触端子。
【請求項2】
 前記本体ケースの前記非貫通長穴の底部には前記絶縁球の径よりも小さい径の第2の袋孔を削孔してその内部に前記コイルバネの端部近傍を収容していることを特徴とする請求項1記載の接触端子。
【請求項3】
 前記第2の袋孔の底面は円錐面であることを特徴とする請求項2記載の接触端子。
【請求項4】
 前記切削部は、袋孔であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の接触端子。
【請求項5】
 前記切削部としての前記袋孔の底面は円錐面であることを特徴とする請求項4記載の接触端子。
【請求項6】
 前記切削部としての前記袋穴の底面の前記円錐面の中心軸は前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされていることを特徴とする請求項5記載の接触端子。
【請求項7】
 前記切削部は、前記大径部の前記外側面から前記プランジャーピンの中心軸をよぎる方向に向けて平面切削された底平面部と、前記プランジャーピンの前記中心軸とオフセットした位置で且つこれに平行に前記大径部の前記端部から前記底平面部に向けて平面切削した側平面部と、前記側平面部に与えられ前記プランジャーピンの前記中心軸と平行に溝加工した溝部と、からなり、前記底平面部及び前記側平面部の法線は、前記プランジャーピンの前記中心軸と同一平面上にあって、前記底平面部は前記側平面部から離間する方向に向けて前記大径部の端部から離間する方向に傾斜していることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の接触端子。
【請求項8】
 前記溝部は、樋状の内面形状を有することを特徴とする請求項7記載の接触端子。
【請求項9】
 前記樋状の内面形状は、前記絶縁球の半径よりも小なる仮想半径を有することを特徴とする請求項8記載の接触端子。
 請求項1に「前記切削部内に少なくとも絶縁表面を有する絶縁球を収容し、前記非貫通長穴と前記絶縁球との間にコイルバネを介在させて前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出するように付勢している」とありますので、上記の特許第5449597号の図面で30で示される押付部材は、「絶縁球」に限定されています。
 そして、【請求項2】から【請求項9】までを見ても、「絶縁球」以外がコイルバネと凹穴を介在させている記載はありません。
 もちろん、「2以上の発明」が特許出願に包含されている、というのは、「特許請求の範囲」に限定されてはいません。
 「明細書」や「図面」にもし球体以外でコイルバネと凹穴を介在させている記載があれば、分割して新たな出願の「特許請求の範囲」に記載することができます。
 特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で、特開2013-068593を検索すれば、広報全体を閲覧できますので、ご自分で確認してみたい方は、お試しください。
 さて、これについて、どのような判断が下されたのでしょうか。
3.包袋禁反言
 「包袋」とは、特許出願、商標登録出願等の出願経過のことをいいます。
 出願以後の特許庁と出願人とのやりとりを保存したもので、現在は電子データとして保存されていますが、昔は、袋の中に保存していいたため包袋と呼ばれています。
 内容は、明細書などの出願書類、拒絶理由通知、意見書、手続補正書などです。
 怪我をしたときに巻く包帯とは字も違いますので、お間違いのないように。
 「禁反言」とは、一方が言動・表示などをしたことにより他方がその事実を信用し、その事実を前提として行動したり地位や利害関係を変更したりしたときに、それと矛盾した事実を主張することが禁ぜられる、という法理です。
 「包袋」と「禁反言」が組み合わせられた「包袋禁反言」とは、特許権に関して、特許権者が、出願経過においてした主張を、権利取得後の訴訟などにおいて翻してはならないことをいいます。
 たとえば、出願人が出願過程の手続きにおいて、出願した発明と従来技術との差異を明確にするため、特許請求の範囲を狭める補正を行い、その旨を意見書で主張して特許権を取得していた場合、後に、侵害訴訟の場において、補正によって狭められた部分について、権利範囲であるとの主張を行うことや、その部分について均等論の主張をすることは認められません。
 さて、それらを踏まえたうえで、判決文を見てみましょう。
1争点(1)イ(構成要件D2「押付部材の球状面からなる球状部」の充足性)について
 事案に鑑み,争点(1)イから判断する。
 本件発明の「押付部材」に対応する被告製品中の「コマ」は,別紙被告ポゴピン断面図のとおり,球形ではなく,一部に球状の面を有するにとどまる。被告が押付部材は球に限られるので被告製品は構成要件D2を充足しない旨主張するのに対し,原告は押付部材の一部(プランジャーピンの傾斜凹部に押圧される部分)が球状の面であれば足りる旨主張するので,以下,検討する。
  (1)まず,特許請求の範囲の記載をみるに,本件発明は,コイルバネで付勢してプランジャーピンを突出させる接触端子に関するものであり(構成要件A〜C),コイルバネがプランジャーピンを直接押圧するのではなく,コイルバネとプランジャーピンの間に「押付部材」が介在し,これがコイルバネから付勢を受けて,その「球状面からなる球状部」がプランジャーピンの傾斜凹部を押圧することに特徴がある(構成要件D1〜3)。
 この「押付部材」という語は当該部材が果たす機能をそのまま記述したものであるところ,その形状に関しては,プランジャーピンの傾斜凹部に押圧される部分が「球状面からなる球状部」であるとされるのみであり,それ以外の部分(コイルバネから付勢される部分,コイルバネ側とプランジャーピン側の中間部分)の形状については特許請求の範囲に何ら記載がない。そうすると,上記押圧される部分が球状に丸くなっていればそれ以外の部分はいかなる形状でもよいと解する余地がある。他方,押付部材の形状は,上記機能を果たし得るものに限定されると考えられる上,同機能を果たすものであればいかなる形状の部材でも本件発明の技術的範囲に含まれるとすることは,現に発明をして明細書に開示した範囲で保護を与えるという特許制度の趣旨に反しかねない。そこで,特許請求の範囲に記載された「押付部材」の語の意義を解釈するため,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮することとする。
 まず(1)において、特許請求の範囲の記載からは、特許権の侵害が成立しうるとの見解を示したうえで、出願過程の主張の検討を行っています。
  (2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「押付部材」との語は一切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として開示されているのは「絶縁球」のみであり,図面に示されたのも球のみである。
 すなわち,本件発明は,背景技術として,コイルバネが直接プランジャーピンに触れるとコイルバネに電流が流れて焼き切れてしまうので,プランジャーピンとコイルバネの間に絶縁球を介在させた接触端子が存在したことを前提に(段落【0002】〜【0004】),比較的大きな電流を流し得る接触端子を提供することを目的として(同【0008】),プランジャーピンの大径部(コイルバネ側)の端部を切削して袋孔を形成し,その底部を円錐面とするとともに,円錐の中心軸とプランジャーピンの中心軸をオフセットさせることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面に強く押し付け,確実に電流を流すことができるようにしたものである(同【0009】,【0013】〜【0015】)。そして,実施例及び参考例をみても,押付部材に相当する部材としては「絶縁球」のみが記載されている(同【0024】〜【0030】,【0032】,【0036】,【0039】〜【0042】,【図2】,【図4】,【図6】)。
 以上のとおり,押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみであり,これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当たらない。そうすると,本件明細書の記載を考慮すると,本件発明における押付部材の形状は球に限られると解するのが相当である。
 そして(2)において、元の特許出願の出願時の出願書類全体の記載に、「押付部材」に相当する部材としては、「絶縁球」の記載しかないことから、分割出願の「押付部材」は、「絶縁球」以上の範囲には広げることができないと判断しています。
 (3)さらに,本件特許の出願経過についてみるに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,@本件特許は,特願2011−192407号を優先権の基礎とする特願2011−271985号(原出願)から分割出願されたものであること(甲2),A上記優先権の基礎とされた出願及び原出願は,いずれも名称を「接触端子」とする発明に関するものであり,特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を通じ,プランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として記載されているのは「絶縁球」のみであること(乙13,14),B本件特許は平成25年4月19日に分割出願されたものであり,その特許請求の範囲に,プランジャーピンとコイルバネの間に「押付部材」を介在させる旨記載されたこと(乙15),C原告は,同年10月11日,押付部材に係る特許請求の範囲の記載を「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」と補正したこと(乙17),Dこれに対し,同月25日,特許法36条6項1号違反を理由1(発明の詳細な説明には押圧部材に絶縁球を用いることが記載される一方,請求項1には絶縁性を有しない押圧部材が記載されていること),同法29条1項3号及び2項の違反を理由2及び3(原出願に「押付部材」として記載されていたのは「絶縁球」のみであり,これを「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」とすることは適法な分割出願でないので,請求項1記載の発明は原出願の公開特許公報により新規性又は進歩性を欠くこと)とする拒絶理由通知が発せられたこと(乙4),E原告は,同年11月8日,上記Cの補正後の特許請求の範囲の記載を「押付部材の球状面からなる球状部」と補正する旨の手続補正書と,絶縁性を有しない押付部材でも本件発明の効果を奏するので,発明の詳細な説明に記載されたものといえる旨の意見書を提出したこと(乙5,6),F同月27日に特許査定がされたこと(乙19),以上の事実が認められる。
 上記事実関係によれば,本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。)。? 以上によれば,構成要件D2の「押付部材」は「球」に限定されると解すべきものであって,別紙被告ポゴピン断面図記載の「コマ」がこれに当たるとは認められないから,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断するのが相当である。
 さらに(3)において、拒絶理由通知に対し、適法な分割出願でないとの拒絶理由通知を受けて行った補正と意見書において、「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」を権利範囲とする主張を取り下げているので、「球体」以外の形状の「押付部材」を認めることができないと判断しています。
 島野製作所はこの判決を不服として、控訴していますが、果たして覆すことができるかどうか。
 この訴訟からも分かるように、最初の出願書類における記載が、権利範囲の確定について大きな役割を果たします。
 いわゆる「実施例型クレーム」とならないよう、試作品、完成品の部品の構造にこだわらず、最低限必要な機能を果たすために、最低限必要な構造だけを記載し、必要ない限定をしないことを、常に意識しておくことが重要です。
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