HOME > お知らせ

お知らせ

2016-03-07
■ 商標の「周知性」について(8)−実際の判断基準<32条>−

 商標法では「周知性」という言葉が、規定ごとに異なる基準で判断されることを続けて述べています。
 今回は、抗弁権の一つである「先使用権」に係る規定である32条について、説明します。
 先使用権とは、他人の商標登録出願前から使用していた結果、いわゆる周知となった商標について、未登録であっても当該商標権に対抗してその継続使用を保障する権利をいいます。
 未登録であっても、他人の出願前から現実に使用され周知となった商標には既に業務上の信用が蓄積しており、この業務上の信用を既得権として保護しなければ公平の理念に反する上に、このような商標が他人の商標権の設定登録以後全く使用できないとすれば、企業努力によって蓄積された業務上の信用の消滅につながってしまうため、このような規定が設けられました。
 ただし、ただ他人の出願前からその他人の商標権に抵触する商標を使用していただけで、保護に値する業務上の信用が蓄積していない場合にまで先使用権を認めるのは、登録主義を取る商標制度の趣旨に反するので、他人の出願前に所定の周知性を獲得していることを要件としています。
 必要とされる周知性について、抗弁権なので、審査基準には規定がありません。
 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説では以下のようになっています。
 ここに「広く認識された」範囲は、4条1項10号の範囲と同様であると考えられるが、これを要件としたのは、相当程度周知でなければ保護に価する財産権的価値が生じないものとみられるからである。
 また他人の商標登録出願後における自己の当該商標の使用の継続を要件としたのも、長く使用を中断すれば、その間に保護すべき信用が減少しあるいは消滅すると考えたからである。
 ただし、逐条解説では、4条1項10号並みの周知性(全国レベル)を必要とする、とされていますが、実際の裁判例では幅があります。
 なお、地域団体商標に対しての先使用権(32条の2)の場合には、地域団体商標自体がそもそも限定的な周知性しか獲得していないものなので、使用の事実だけで足りると規定しています。
1.ゼルダ
 登録商標「」(指定商品:旧第17類 被服、布製身回品、寝具類 出願日:昭和55年8月4日)に対し、被服等に使用された「」が、その出願時に先使用権を主張するのに十分な周知性を獲得していいたかどうかが争われた事件です。
 1審では先使用権は認められませんでしたが、2審で逆転となりました。
 結論として、32条1項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法4条1項10号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである、とされました。
 理由は以下の通りです。
 商標法32条1項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない
 そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。
 特許庁の判断は以下の通りです。
    使用開始時期:昭和54年3月ごろ
    使用状況:昭和54年8月当時直営店8店舗、フランチャイズ店27店舗
    売上高:昭和54年11月〜55年8月当時約2億円(昭和54年のアパレル46社の総売上高4628億円)
    宣伝方法:商品展示会、ファッションショーの開催、その案内状の発送、ダイレクトメールの発送等
    周知性:被控訴人は、株式会社ブローニュの本件登録商標に係る商標登録出願の日である昭和55年8月4日前から、日本国内において、不正競争の目的でなく、右商標登録出願の指定商品の範囲に属する婦人服について被控訴人標章の使用をしていた結果、右商標登録出願の際、現に、被控訴人標章が被控訴人の業務に係る商品を表示するものとして「需要者」としての婦人服のバイヤー、すなわち問屋や一般小売業者の間で広く認識されていたものと認められる。
    周知性に関する個別事情デザイナーブランドの場合、その対象とする層によって、多数の消費者に販売することが必ずしも目的とはならず、その売上げの多寡がブランドの著名性と結びつくとは限らないことが認められる。(中略)約9か月間約2億円の売上高はデザイナーブランドとしてその周知性が認められないほど僅少であると認めることはできない。したがって、「ゼルダ」ブランドの婦人服の売上高が右のレディスアパレル46社の同年における総売上高の合計額に比して僅少であることをもっては、先使用権成立の要件である周知性の存在を左右するに足りない。
2.ケンチャン餃子
 ちらは、登録商標「」(第30類 ぎょうざ 出願日:平成8年12月6日)に対し、「ぎょうざ」に使用された下記の商標が、その出願時に特定の地域において、先使用権を主張するのに十分な周知性を獲得していいたかどうかが争われた事件です。
 使用商標
 
 参考裁判例として、平成24年(ワ)6896が挙げられています。
 裁判例の判旨は、以下の通りです。
 需要者の間に広く認識されているとき」については,先使用権に係る商標が未登録の商標でありながら,登録商標に係る商標権の禁止権を排除して日本国内全域でこれを使用することが許されるという,商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことに鑑みると,本件においても,単に当該商標を使用した美容室営業の顧客が認識しているというだけでは足りず,少なくとも美容室の商圏となる同一及び隣接する市町村等の一定の地理的範囲の需要者に認識されていることが必要というべきである。
 裁判所の判断基準は以下の通りです。

    使用開始時期:昭和45年11月ごろ(50年11月からは社名)
    使用状況:昭和54年8月当時直営店8店舗、フランチャイズ店27店舗
    販売実績:原告は,昭和45年11月の設立後,昭和47年には,新たな工場(東京第1工場)を開設,稼働させていたが,製造が追いつかなくなり,昭和53年11月,ケンちゃん餃子新潟株式会社を設立し,新潟工場を開設した。さらに,平成5年には,東京第2工場を開設した。
     原告の売上は,昭和49年11月決算期には1億2000万円余であったが,年々売上をのばし,その後,平成5年をピークにその後,増減を繰り返しながらも,ほぼ7億円以上の売上を計上している。
     一方,新潟工場では,当初,東京方面に販売していたが,新潟県内の小売業者に対しても販売するようになり,さらには,その近隣の県の小売業者に対しても販売するようになった。その売上は,第9期(昭和61年11月1日〜昭和62年10月31日)で9761万9410円,第10期(昭和62年11月1日〜昭和63年10月31日)で1億1343万0239円,第11期(昭和63年11月1日〜平成元年10月31日)で1億2652万8960円であった。
     また,平成元年2月には,新潟工場と合わせて,年間7000万個の餃子を作り,国内200社の中で5番目のシェアを有していた旨の記事が新聞に掲載された。
    宣伝活動:原告は,昭和51年ころ,ラジオCMを放送し,平成2年から平成5年の間にも,ラジオCMを放送した。
     上記CM放送の受信地域は,関東地方1都6県(神奈川県,埼玉県,千葉県,栃木県,茨城県)と山梨県を完全にカバーし,さらに,福島県,長野県,静岡県,新潟県の一部を含むものである。
     また,平成12年,原告のホームページを開設した。
    周知性
    ア 前記によると,原告各標章を付した原告商品の売上は,少なくとも,本件地域を中心に7億円前後というものであり,新潟工場による製造,販売も合わせると,これを相当程度上回る。
     また,前記1(4)のとおり,本件地域において,ラジオCMを放送したことも考慮すると,遅くとも,本件商標の出願(平成8年12月6日)の際には,原告各標章は,原告商品の商品表示として,本件地域を中心に,需用者の間に広く認識されるに至ったと認めることができる。
    イ 被告は,原告商品のうち,業務用商品と市販用商品との販売実績が不明であると主張する。たしかに,その内訳は必ずしも明らかではないが,上記売上高によると,相当長期にわたり,店舗等において消費者の目に触れたことが窺え,また,前記のとおり,ラジオによるCM放送などを通じ,本件地域内では,業者間だけでなく,一般消費者間でも,原告各標章が,原告商品の商品表示として広く認識されるに至ったと認定して差し支えないと考える。
    ウ また,被告は,仮に,原告各標章に周知性が認められたとしても,その場所的範囲は,全国ではなく,地域を限定すべきであると主張し,特に,新潟県における周知性を争っている。しかし,前記のとおり,新潟工場で製造したもののうち,新潟県内や近隣の県の小売業者に対しても販売していることが認められ,上記認定を左右するに足りる事情は窺えない。
    結論:少なくとも本件地域においては,本件商標の出願の際,原告各標章が,需用者の間で周知であったということができ,原告は,本件商標につき,本件地域において,先使用による商標の使用をする権利を取得したということができる。
     なお,商標法32条1項により,商標の使用権が認められる以上,その使用権の内容は,先使用時における使用態様に限定されるわけではないが,原告は,本件商標の使用権の確認を求めるにあたり,原告各標章の態様の使用に限定した使用権の確認を求めており,その限度で認容することとする。
    *本件地域:東京都,埼玉県,神奈川県,千葉県,茨城県,栃木県,群馬県,山梨県,福島県,長野県,静岡県,新潟県
朝陽特許事務所 お問い合わせ−特許、実用新案、意匠、商標、著作権、不正競争防止法等、知的財産についてのお問い合わせ。

朝陽特許事務所のご案内

朝陽特許事務所(ちょうよう)−東京都港区にある特許事務所。

■ 当事務所は、社内に独立した知財部門を設けることが難しい中小企業向けの特許事務所です。

<取扱業務>
・ 特許・実用新案・意匠・商標の出願代理
・ アイディア活用等のご相談
・ 知的財産権の活用コンサルティング
・ 知的財産権等についての講演・セミナー講師

<所在地>
〒105-0003
東京都港区西新橋1-22-4
Space R 3階
TEL 03-6457-9671
FAX 03-6457-9672
URL http://www.choyo-pat.jp

 大きな地図で見る