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お知らせ

2015-09-03
■ 商標の「周知性」について(2)−実際の判断基準<3条2項(前編)>−

 前回、商標法では「周知性」という言葉が、規定ごとに異なる基準で判断されることを述べました。
 今回からは、実際にどのように判断されたかについて、説明します。
 まず、3条2項について、今回は特に文字商標について述べます。
 商標法3条2項とは、1項で定めた識別力のない商標であっても、使用により出所表示機能等を獲得したものであれば、登録を受け得る、という救済規定です。
 審査基準では、全国レベルの周知性を要求し、また、登録を受け得るのは、実施に使用されて識別力等を獲得した商標と同一の商標でだって、その使用商品・サービスと同一の指定商品・役務としているものだけ、とされています。
1.蔵王チーズ
 財団法人蔵王酪農センターが、指定商品を「チーズ」として出願したところ、指定商品との関係で、単にその商品の産地・販売地を表示するにすぎない、として商標法3条1項3号違反とされ、3条2項の周知性を備えると主張しましたが認められず、拒絶査定されました。
 出願人はこれを不服として、拒絶査定不服審判を請求しました。
 審判では、以下の証拠が検討されました。
    使用期間:昭和35年に設立された請求人は、同55年には国産ナチュラルチーズ実験製造工場を建設し、同57年に乳製品・チーズ料理等普及店「チーズシェッド」を開設、同59年には三越仙台店内に「チーズ普及コーナー」を設置、同61年には国内初のチーズフェアを東京三越百貨店で開催するなど、長年にわたってチーズの製造、普及を図っており、請求人は,遅くとも1981年から、商品チーズについて、本願商標と同一視し得る「蔵王チーズ」の商標の使用を開始している。
    販売実績:平成20年において、商標「蔵王チーズ」が使用されたクリームチーズの生産量は190tであり、国内のクリームチーズ生産量の約13%のシェアを占める。
    広報・広告等:商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズに係るパンフレットが、請求人によって継続的に作成されていることが推認し得る。
     また、宮城県物産協会、蔵王町物産振興協会やJR東日本といった、請求人以外の者が作成するパンフレットにおいても、商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズが紹介されている。
     商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズについて、平成13年から同24年にかけて、「るるぶFREE仙台」や「宮城のうまい店」「monoうまいモノ便」といった雑誌で紹介されている。
     「とんねるずのみなさんのおかげでした」(2001年)、「はなまるマーケット」(2011年)、「めざましテレビ」(2011年)のテレビ番組で,商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズについて紹介されている。
     職権調査によれば、商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズは、宮城県の支援を受け、「地域の逸品」に選出され現在でも紹介されているほか、蔵王町観光協会における紹介、仙台商工会議所における紹介もなされている。
     遅くとも1989年には、商標「蔵王チーズ」が使用されたチーズについて新聞で紹介されており(1989.11.24読売新聞)、その後2013年まで、継続的に記事で紹介されている。
    他人による使用:他人による「蔵王チーズ」の使用は、確認することができない。
 審判官の合議体は、本願商標「蔵王チーズ」は、商品「チーズ」に使用をされた結果、(全国レベルで)需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものといえると認め、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであると判断しました。
2.東京牛乳
 協同乳業株式会社と東京都酪農業協同組合が、指定商品を「牛乳」として出願したところ、指定商品との関係で、単にその商品の産地・販売地を表示するにすぎない、として商標法3条1項3号違反とされ、3条2項の周知性を備えると主張しましたが認められず、拒絶査定されました。
 出願人はこれを不服として、拒絶査定不服審判を請求しました。
 審判では、以下の証拠が検討されました。
    使用期間:平成18年9月に本願商標を付した商品「牛乳」の発売を開始し、現在も継続して本件商品を販売している。したがって、本願商標の使用期間は、本件商品の発売から現在にいたるまでの6年余にすぎない
    販売エリア:「東京都酪農業協同組合/東京牛乳」のウエブサイトには、本件商品の写真とともに、「東京牛乳は、多摩地域の酪農家発、東京都民の方にお届けする産地指定牛乳です。」、「『東京牛乳』は、多摩地域の牛乳だけで作る“TOKYOブランド”で、農林水産省が提唱している『地産地消』の東京版です。」、との記載がある。また、本件商品は、東京都地域特産品認証食品に認証されている。
     平成23年9月2日付け「読売新聞」に掲載されている本件商品の記事において、「現在は、多摩地区や23区内のスーパーや百貨店を中心に、埼玉、山梨など6都府県で販売されている。」との記載がある。したがって、本件商品は、地産地消、すなわち地域の消費者ニーズに即応した農業生産と、生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結びつける取り組みを目的としており、その流通地域もほぼ東京都及びその近県にとどまっている。
    販売実績:本件商品の平成22年の販売実績は、1L換算で約141.4万本である。本件商品の生産量は明らかではないが、本件商品を含む東京都の平成22年の生乳生産量1万1811tは、全国の生産量(約772万t)の0.2%であることからすれば、本件商品の生産量及び販売実績は、ともに全国の牛乳の生産量及び販売量に対してわずかであるといわざるを得ない。
    メディアへの登場:テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等のメディアで本件商品が紹介されている。しかしながら、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等のメディアにおける本件商品の紹介も、大半が1回に限られ、反復継続して紹介されたものではなく、また、新聞、雑誌における本件商品の紹介記事等も、そのほとんどは「東京牛乳」が地産地消の商品である等の一般的な紹介を行うもので、請求人の業務に関する商品であることを明確に示す記載も多いとはいえないから、「東京牛乳」が地産地消の商品であることの認識を得ることができるとしても、請求人の業務に係る商品であることを認識するに至っていることを明らかにするものとはいえない。
    イベントへの出店:各種イベントにおいて本件商品の展示、即売、試飲が行われている。しかしながら、その各種イベントは、ほぼ東京都内で開催されたものであり、また、その各種イベントの参加者の詳細については不明である。
    ウエブでの認知度:平成23年8月1日付けで「東京牛乳」をグーグルで検索すると約10万6000件がヒットし、それから似たページを排除した有効件数は810件である。そして、そのうち550件が本件商品に係るものであり、うち81件が記事中に(本願商標の使用者として)請求人を特定する記載がある。しかしながら、そのインターネットにおける記事は、その閲覧の頻度等が明らかではなく、本件商品とその出所が明記される等、本件商品が請求人の業務に係る商品であることを明確に示す記載は、本件商品に係るウェブサイト550件の2割にも満たず、多いとはいえない
    その他:本件商品を原材料に使用した菓子等の商品が販売されている。しかしながら、本件商品を原材料に使用した菓子等の商品が販売されているとしても、そのほとんどが、東京及びその近県で限定的に販売されているものであり、また、その商標の使用は、本願商標をその指定商品「牛乳」に使用しているものとはいえない。
 審判官の合議体は、本願商標「東京牛乳」は、東京都及びその近県の取引者、需要者の間で、ある程度その存在が知られるようになっているといえるとしても、その指定商品「牛乳」について使用をされた結果、全国的に広く、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものになっていると認めることはできないと判断し、拒絶査定を維持しました。
 また、請求人は、本願商標は、本来なら地域団体商標登録を受けるべきところ、諸般の事情(∵出願人が協同乳業株式会社と東京都酪農業協同組合)により、地域団体商標の登録を受けることが困難な状況であり、既に形成された一定の市場や、協力者の志気の向上、地域興しとしての今後の戦略等からも商標権の確保が不可欠なものである旨主張した点について、商標法第3条第1項第3号及び同条第2項の適否にあたり、そのような事情を考慮することは相当とはいえない、と判断しました。
3.あずきバー
 井村屋グループ株式会社が、指定商品を「あずきを加味してなる菓子」として出願したところ、指定商品との関係で、単にその商品の品質(原材料,形状)を表したもので自他商品識別機能を果たさない、として商標法3条1項3号違反とされ、拒絶査定不服審判でも拒絶査定が維持されましたが、審決取消訴訟で知財高裁により審決取消の判決があったので、差戻しの審判となりました。
 審判では、以下の証拠が検討されました。
    使用期間昭和47年に、「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子の販売を開始。
    販売エリア:全国の小売店等でその販売を継続している。
    販売実績:平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本となっている。
    メディアへの登場等毎年7月1日を「井村屋あずきバーの日」と定め,平成元年以来,本件商品について中断を挟みながらもテレビコマーシャルを放映しており,その放映料は,少なくとも平成20年以降,毎年1億2000万円を超えているほか,新聞その他の媒体等を通じて全国で広告を実施している。
    使用態様・認知度:請求人は,本件商品の発売以来,本件商品の包装に請求人の会社名とともに,丸文字体の一種といえる書体により「あずき」の文字を縦書きし,その「き」の文字の左下に「あ」「ず」「き」の各文字の約4分の1程度の大きさで丸文字の一種といえる書体による「バー」の文字を縦書きした構成からなるもの,これを横書きにしたもの又はこれと外観において同視できる程度の標章を付しており,上記の宣伝広告等においても当該包装が映った写真又は映像を使用することが少なくなく,当該宣伝広告等においては,ほぼ常に請求人の会社名を重ねて紹介している。

     このような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績により,「あずきバー」との語でインターネット上の検索を行うと,表示される多数のウェブページではいずれも本願商標が請求人の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されているほか,請求人とは直接の関係が認められない著者により,「あずきバーはなぜ堅い?」との表題の書籍(平成22年7月16日刊行)が執筆・出版されるに至っている。
     なお,「あずきバー」との商標は,証拠上確認できる範囲内では,請求人以外に3社が自社の商品に使用しているが,いずれも,「玄米あずきバー」,「十勝あずきバー」及び「セイヒョー金太郎あずきバー」という各商品の名称の一部として使用されているものである。しかも,これらのうち,「セイヒョー金太郎あずきバー」も,自社名を商品に付していることで差別化を図っていることがうかがえるばかりか,「玄米あずきバー」の広告ウェブページには,「ライバルは井○屋!!」との大きな記載があり,請求人と本件商品との関係を強く意識した内容となっており,このことは,とりもなおさず本件商品が請求人の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得していることを裏付けるものであるといえる。
 結果として、登録が認められました。
 注目すべきは、出願に係る商標が「標準文字」であり、使用された商標が上記の画像のような態様だったのですが、審査基準において出願商標と使用商標の「同一」を求める3条2項の適用を認めた点です。
4.GR
 株式会社リコーが、指定商品を「デジタルカメラ並びにその部品及び付属品」として出願したところ、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標にすぎない、として商標法3条1項5号違反とされたものですが、拒絶査定不服審判でも拒絶査定が維持されました。
 審判では、以下の証拠が検討されました。
    使用期間:別掲2の構成からなる標章を付したコンパクト型デジタルカメラ「GR デジタル」を2005年10月21日に発売し、その後、その後継機種を順次発売し、現在に至っている。
    販売エリア:取引先は大手家電量販店を中心に全国に及んでいる。
    販売実績:該商品の販売台数は、2005年10月から2011年9月の間において、シリーズ累計で174,830台。
    使用態様・認知度:請求人は、自己の商品「デジタルカメラ」本体には、別掲2に示すとおり、「GR」の文字と「DEGITAL」の文字とを上下二段に表してなる標章を使用している。
     そして、雑誌記事等の商品紹介にあっては、請求人(出願人)の名称である「リコー(RICOH)」の文字や別掲2の構成からなる標章を付した実機の写真併用した態様で使用されるものが大半を占めている。
     さらに、欧文字2字は、上記1のとおり、商品の型番を示すための記号又は符号として一般的に使用されており、該文字の商標としての自他商品の識別力は本来的に弱いものであるから、「リコー(RICOH)」の文字や「DEGITAL(デジタル)」の文字と「GR」の文字とが併記された商標の使用にあっては、取引者、需要者をして「GR」の文字のみで請求人(出願人)の取り扱う商品を連想、想起させるほど格別に注意を強く惹くものであるとはいうことができない
     そうとすれば、上述の文字が併記された標章からは、「GR」の文字部分を要部抽出することができず、該標章と標準文字「GR」からなる本願商標とは同一の商標ということはできない
     加えて、該商品の生産台数は、上記のとおり、5年間の累計で17万余台であり、他方、職権調査によれば、「カメラ映像機器工業会」のウェブサイトにおいて、我が国おけるデジタルスチルカメラの生産出荷実績の記載があり、2006年から2011年にかけての国内向け生産出荷実績は、概ね年間1000万台前後で推移していることからすれば、たとえそれが1機種のみの販売台数であって、全国に販売網があるとしても、その市場占有率は極わずかであるといわざるを得ず、該商品に接する機会のある需要者は多数であるとはいい難いものである。
 結果として、登録は認められませんでした。
 使用期間、販売エリア、販売数量だけ考慮すれば、登録が認められてもよいのではないかとも考えられますが、使用態様を考慮すると「GR」が単独で全国的な知名度を獲得し、出所表示機能を発揮しているわけではないことや、一見多く見える販売数量も市場占有率で考えればわずかだったことにより、3条2項の適用は認められませんでした。
5.KAWASAKI
 川崎重工業株式会社が、指定商品を「エンジンオイル,ギアオイル」などとして出願したところ、東京湾に臨む日本有数の工業都市である川崎市に通じる「Kawasaki」の文字を書してなるから、商品の産地・販売地を表示するにすぎない、として商標法3条1項3号違反、ありふれた氏の一つと認められる「川崎」に通じる「Kawasaki」の文字を書してなるから商標法3条1項4号違反、とされたものですが、拒絶査定不服審判で登録が認められました。
 審判では、以下の証拠が検討されました。
    使用期間
    ア 請求人は、1896年に設立され、国内外の100に及ぶ関連企業と「川崎重工グループ」を形成し、「航空宇宙」「鉄道車両」「造船」「エネルギー設備」「産業機械」「環境・リサイクル」「インフラ整備」「レジャー製品」の分野に事業を展開している。そして、請求人は、本願商標と外観において同視される商標(以下「使用商標」という。)を請求人のホームページ及び会社案内において使用している。なお、請求人は、本願商標の使用を1970年代に開始したと主張している。
    イ 請求人は、使用商標を使用した企業広告及び二輪自動車の広告を、遅くとも2000年から継続して各種新聞、雑誌、チラシ等に掲載し、また、駅、空港等の公共スペースに使用商標を使用した企業広告を掲示している。
    ウ 請求人は、使用商標を本願の補正後の指定商品に遅くとも1990年から使用し、該商品をカワサキ正規取扱店、バイク用品店、インターネット販売を通じて、全国で販売している。また、二輪自動車に関連するウェア等の多くの商品にも使用商標を使用している。
    使用態様・認知度
    エ 使用商標は、商品「二輪自動車」について、請求人により使用をされた結果、需要者が請求人の業務に係る商品であることを認識することができるものとなっている。
    オ 請求人を含む二輪自動車メーカーは、一般的純正商品として、自社のハウスマークを付したオイル製品を販売している。
    カ 本願の補正後の指定商品と二輪自動車とは、その取引者、需要者が重なるものである。
    キ 当審における職権調査によっては、「Kawasaki」など「川崎」に通じる文字を他者が本願の補正後の指定商品について使用している事実は発見できなかった
 結果として、登録は認められました。
 二輪自動車メーカーが、一般的に純正商品として自社のハウスマークを付したオイル製品を販売している、という業界事情を考慮して需要者への周知性を判断した点に特徴があります。
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