HOME > お知らせ

お知らせ

2014-12-08
■ 先使用権−特許と商標の違い−

1.知的財産は早い者勝ち
 知的財産において優位に立つのは、原則として先に何かをした方です。
 後手を踏んだら負けです。
 特許、実用新案、意匠、商標のすべてで、同一のものについて2以上の出願があれば、先に出願した者だけが登録を受けることができます。
 特許や意匠などで、同じものが先に出願されていなくても、先に公開されていたりすれば、それについて登録を受けることはできません。
 意匠の場合、独占実施権は登録意匠の類似範囲にも及びますが、2以上の登録意匠の類似範囲が抵触していた場合、その抵触する範囲においては、先願優位の原則により、後から出願した意匠権者の実施は制限されます。
 知的財産の価値は、原則としては新しいものを世に出す努力を促すために、新規なものを一定期間保護し、開発投資を回収させ、利益を上げさせることにあります。
 しかし、出願していなくても、特許が出願される前に、それと同一の発明について自分で開発して製造などをしていた場合に、後から権利化されたものによって実施が制限されるのは不合理なので、それに対する救済措置が設けられています。
2.特許の先使用権
 特許法の先使用権は、以下のように定められています。
第79条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
(1) 知得のルート
 まず、発明を知得したルートが出願人と異なることが必要です。
 特許発明について知らずに、独自に発明された場合や、独自に発明された第三者から知らされた場合は、知得のルートが正当であると言えます。
 特許発明の出願人から知得して、単に出願前に先使用しただけでは、先使用権は得られません。
 例えば産業スパイなどで手に入れた情報を基にして先使用してもだめだということです(これは他にもいろいろとダメですが)。
(2) 先使用
 次に、特許発明が出願された際に、実際に日本国内で、その発明の実施の事業またはその事業の準備をしていることが必要です。
 この制度は、事業設備の保護が目的なので、その特許出願がされた際に、既に事業設備が完成しているか、工場が建設中であったり、生産設備を発注済である等、具体的、客観的に事業が進んでいなければならず、単に研究や試作しただけでは、保護すべき事業設備があるとは認められません。
 以上の要件を満たせば、特許法上の先使用権を得ることができ、特許発明と同じ発明を実施しても、侵害に問われることはありません。
3.商標の先使用権
 これに対し、商標法の先使用権は、以下のように定められています。
第32条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(中略)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。(後略)
(1) 目的
 商標では、知得のルートは問題とはなりません。
 その代わり、「不正競争の目的」なく先使用していたことが必要となります。
 「不正競争の目的」とは、類似商品(サービス)間で、不正の利益を得ることや、相手に損害を与えることです。
 図利加害目的があっても、商品・サービス間に類似がなければ、不正競争の目的ではありません。
(2) 先使用
 次に、登録商標が出願された際に、一定の周知性を獲得していなければなりません。
 ただ使用していただけではだめなのです。
 商標では、「後出しじゃんけん」が通用してしまうのです。
 商標法が保護するのは、その商標に蓄積した業務上の信用なので、相手の出願時に既に使用していても、周知性がなければ、保護価値が認められないのです。
 では、どの程度の周知性があれば、先使用権が認められるかが問題となります。
 以下に、先使用権が認められるために必要な周知性について判断した裁判例を示します。
 この判決は、最高裁でも支持されました。
* ゼルダ事件控訴審 東京高等裁判所 平成3(ネ)4601 平成5年07月22日
 商標法32条1項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない
 そして、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の不利益が前者に比し大きいものと推認される。
 かような事実に鑑みれば、同項所定の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録障害事由として規定されている同法4条1項10号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するのが相当というべきである。
 「取引の実情」では、商標の使用期間、売上額、広報宣伝方法、実際の使用態様などが考慮されます。
 また、「商品」の場合は、原則として、地域限定での周知性では不十分ですが、「サービス」、特に対面サービスの場合には、その提供の場所周辺地域での周知性で十分となります。
 また、商標自体の識別力が強い方が、周知性が高いと判断されるのに有利です。
4.商標登録のないリスク
 新技術を開発した場合、技術流出を恐れて特許出願せずに製造していて、後に他人が独自に同じ技術を開発して特許を取得したとしても、相手の出願時に実施していれば、先使用権で保護されます。
 しかし、商標の場合は、相手の出願までに、隣接県レベルの周知性を獲得していなければ、先使用権は認められません。
 また、登録商標の無効理由の一つに、
 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 というものがあります。
 つまり、出願時に類似範囲の先行商標が類似範囲の商品・サービスに使用されていて、周知性を獲得していたものは、過誤登録として無効にしうるのですが、先使用権の周知性レベル(隣接都道府県)すら満たさない場合、無効理由となるべき周知性(全国レベル)も有していないので、相手の商標権を消滅させることもできません。
 実例を挙げます。
 平成17年9月27日に東京都内で「ひかり法務司法書士事務所」を開業し、平成20年7月1日に同事務所を法人化して「司法書士法人ひかり法務事務所」を設立した司法書士に対し、京都に本部を置く「ひかり司法書士法人」が、商標の使用差止めと損害賠償を請求した事件です。
 原告は平成17年11月17日出願、平成18年6月9日に登録された商標「ひかり」、指定役務「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続の代理,行政手続きの助言及び代理」という商標の商標権者です。
 ご覧のように、被告が「ひかり」を含む商標の使用を始めたのは、原告が出願した日より前です。
 しかし、その間のタイムラグは2カ月弱、とても「周知性」を獲得するには至りませんでした。
 1審の東京地裁平成22年(ワ)第1232号では、商標の使用差止めに加え、1千万円を超える損害賠償が認められました。
 2審中に和解が成立しましたが、結局賠償金は1審判決を下回らなかったと聞いております。
 被告は現在、自分の苗字を冠した商標を使用して、営業しています。
 また、訴訟には至りませんでしたが、荒川区で営業する社会保険労務士事務所に対しても、上記原告のグループに属する社会保険労務士法人から、名称使用差止めの警告があり、涙を飲んで名称変更しております。
 また、神奈川県にある昭和30年創業のお菓子屋さんが、平成6年から使用しているお菓子の名前「クルミッ子」を商標登録しようとしたところ、平成12年3月22日出願、平成13年3月16日に登録された「信濃の\くるみっ子」に類似し、指定商品も同一であるとして、拒絶されてしまいました。
 その後、さまざまな審判や訴訟を経て、「クルミッ子」は登録されるに至りましたが、その間にはかなり複雑な法律構成や、一時的な商標変更なども行われ、手間と経費は相当なものとなりました。
 両方の例ともに、使用を決定した段階で出願しておけば、このような目に遭わずに済んだのですが。
5.未必の信用も保護されるので、ぜひ早目の出願を!
 ところで、3.(2)で、商標法はその商標に蓄積した信用を保護する、と述べました。
 では、未使用の商標を出願するとどうなるのでしょうか。
 商標法では、
 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、(中略)商標登録を受けることができる。
 と定められています。
 この「使用をする」の部分が大事です。「使用をしている」ではないところに注目です。
 現在使用されていない商標であっても将来使用されれば出所表示、品質保証などの商標の諸機能が発揮され、業務上の信用が化体し得ます。
 そこで、使用意思のある商標については、未必的な信用、即ち、将来の使用により蓄積されるであろう信用をも保護すべく、その商標登録を認めています。
 また、使用前に出願のための先行商標調査を行えば、類似の登録商標を発見した場合に、再度商標を考え直すことができ、商標権侵害のリスクも回避することができます。
朝陽特許事務所 お問い合わせ−特許、実用新案、意匠、商標、著作権、不正競争防止法等、知的財産についてのお問い合わせ。

朝陽特許事務所のご案内

朝陽特許事務所(ちょうよう)−東京都中央区にある特許事務所。

■ 当事務所は、社内に独立した知財部門を設けることが難しい中小企業向けの特許事務所です。

<取扱業務>
・ 特許・実用新案・意匠・商標の出願代理
・ アイディア活用等のご相談
・ 知的財産権の活用コンサルティング
・ 知的財産権等についての講演・セミナー講師

<所在地>
〒104-0045
東京都中央区築地2-15-15
セントラル東銀座703
TEL 03-6278-8405
FAX 03-6278-8406
URL http://www.choyo-pat.jp

 大きな地図で見る