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お知らせ

2014-04-21
■ 知的財産と刑事罰−逮捕されるんです−

1.知的財産を侵害すると刑事罰があります
 本年3月13日に、東芝の研究データを流出させたとして、元技術者が逮捕されました。
 普通知的財産権の侵害がニュースになるときは、製造販売の差止めや、損害賠償の請求など、民事的な争いについてのことが多いですが、今回は「逮捕」です。
 知的財産権を侵害等すると、刑事罰が適用される可能性がある、ということです。
 そういえば昨年の3月に、スターバックスのマークに似た商標を使用した件で、千葉県東金市内のガールズバーの経営者が書類送検されました。
 2004年の5月には、ファイル交換ソフトの開発者が逮捕されています(最高裁で無罪確定)。
 ちなみに上記の例で適用されているのは、それぞれ不正競争防止法、商標法、著作権法です。
 民事の裁判で取り扱うのは、あくまで個人や法人が当事者対立構造で争う事件です。
 しかし、刑事罰が科されるということは、国家が、知的財産権の侵害が社会の秩序を乱す、と認めているということです。
2.なぜ知財関係各法に、罰則規定があるのか
 知的財産に関する法律はいろいろな種類があるのですが、今回は特許法、商標法などの産業財産権法と、著作権法および不正競争防止法について述べることにします。
 刑事罰があるのならば、全部刑法に任せればいい、と思う方もいるかもしれませんが、犯罪は時代の変化に伴い多様化していきますので、それをすべて刑法に盛り込むと、刑法の条文は膨大な量になってしまいます。
 そこで、社会のいろいろな必要性に基いて制定する法律に、それぞれ罰則規定を設けています。
 労働基準法にも、貸金業法にも、特定商取引に関する法律にも、皆罰則規定があります。
 罰則規定は、条文の一番最後の方にあるのが普通です。
 その法律の内容を規定して、最後に違反に対する罰則を定めてあるわけです。
 「○○条に違反した者は、○年以下の懲役若しくは○円以下の罰金に処(し、又はこれを併科)する」というような条文になります。
 併科とは懲役と罰金の両方を科することです。
 普通はどちらか一方なので、併科というのは重い処罰です。
 法人も刑事罰対象となりますが、当然罰金刑だけが定められています。
 法人を刑務所に入れることはできませんからね。
 ただし、法人と、その法人に属する個人の両方が刑事訴追されることはもちろんあります。
 前述したスターバックス商標の事件でもそうでした。
3.特許法の罰則
 特許法、商標法や不正競争防止法は、その性質上企業活動において違反行使が行われることが多いです。
 登録された特許や商標は公開されていますから、それを無断で模倣して、不当な利益を得ようとすることは許されません。
 個人で特許権を侵害した場合の罰則は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれらの併科です。
 ところが、法人等が自己の業務に関して特許権を侵害すると、3億円以下の罰金となります。
 そして侵害行為を行った者に対しても、個人の場合と同じ罰則が科されます(これを両罰規定といいます)。
 法人に対しては、1000万円程度の罰金では抑止力として不十分だからです。
 もちろん、刑事で侵害が認められるような場合には、民事でも損害賠償請求が認められる場合が多いとは思いますが、そのためには、被害者(被侵害者)が自ら訴訟を提起しなければなりません。
 ちなみに民事上の不法行為による損害賠償請求について、特許権などを侵害した場合、過失が推定されることになっています。
 通常、不法行為については、被害者が加害者の故意または過失を立証しなければなりませんが、権利内容が国のお墨付きで公開されているのに、それを調べなかった場合は過失がある、と定められているのです。
 技術的特徴のある製品の製造販売や、営業の際に看板をあげるなどの行為をする前には、事前に類似する権利がないかどうか調査するのは当たり前だ、と法律は認めているのです。
 侵害された側が損害賠償請求を行う場合、侵害事実の立証だけでよく、故意または過失の立証は必要ない、という形で、立証責任が軽減されています。
 過失がない、と主張したい場合、被告(侵害者)側が法廷で立証しなければなりません。
 十分な注意を払っていたにもかかわらず、公報に掲載されている特許発明を知らなかったことに合理的な理由があることを証明しなければならないのですから、これはかなり大変です。
4.不正競争防止法の罰則
 不正競争防止法で問題になるのは、営業秘密の流出です。
 つまり、上記のように公開されたものを模倣する行為ではありません。
 同業他社へ転職する場合、採用する側は、それまでの経験を評価するわけですから、元の企業で培ったものを全く生かせないのであれば、転職の自由が損なわれることになります。
 そこで、何を「お土産」にすると法律に触れることになるかが問題となります。
 罰則の対象になるのは、「営業秘密」の流出です。
 流した人も、受け取った企業も、対象となります。
 「不正の利益を得る目的」又は「営業秘密の保有者に損害を加える目的」があることが要件となります。
 「不正競争」防止法ですから、「不正競争の目的」があることが必要なのです。
 個人で営業秘密の流出に関与した場合の罰則は、やはり10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれらの併科で、法人等についても、3億円の罰金に加えて、行為者について個人と同様の罰則が科されます。
 さて、では「営業秘密」とは何でしょうか。
 営業秘密は、
(1) 秘密管理性
(2) 有用性
(3) 非公知性
 の3つの要件を備えていなければならないとされています。
 秘密管理性とは、その情報が秘密となるようにきちんと管理されていることです。
 書類の管理であれば、鍵のかかったロッカーなどに保存され、出し入れの際に記帳がなされ、さらには、保管してある部屋への入室も制限されているなど、きちんとしまわれていなければなりません。
 電子情報であれば、アクセス制限があり、アクセス履歴も保存されているなどのように管理されていなければなりません。
 技術の進歩に伴い、秘密管理性の要件はハードルが上がりつつあります。
 有用性とは、その情報に実際の価値があることです。
 上記のように管理されていたとしても、実際に役に立たないものであれば、それを流出させたり受け取ったことで罰せられるのは酷だからです。
 その情報があることで、競業他者に対して十分なアドバンテージがあるのでなければ、法律で守ってあげる必要はありませんね。
 非公知性とは、その情報が実際に秘密であることです。
 どんなにきちんと管理され、有用な情報であっても、すでに世の中にその情報が知られていた場合にまで違法であるとするのは、有用性がないものと同様に、酷だからです。
 なお、不正競争には周知商品等表示混同惹起行為などの規定もあり、それぞれに罰則が規定されていますが、今回は割愛します。
5.両罰規定の意義
 特許権の侵害等で、3億円以下の罰金という、かなり重い刑が定められているにもかかわらず、侵害行為者にも罰則が及ぶようになっているのはなぜでしょうか。
 企業の従業者等は、上司の命令であれば違法な行為でも拒否しにくいこともあります。
 また、自分の部署の成績が上がることへの誘惑もあるでしょう。
 命令する側も、自分が懲役に行くことまでは腹をくくったとしても、部下を刑事罰に追い込むところまでやることに良心の呵責を覚えるのではないでしょうか。
 また、成績を上げたい部下が先走って違法な行為を行った結果、企業にも高額の罰金が科されるとなれば、企業の利益や名誉を守るために、違法な行為への監督を厳しくするでしょう。
 逮捕され、拘置され、その上刑務所に入る、という、実際に身体の自由を奪われることになれば、これはかなりの苦痛です。
 逮捕される、という恐怖感は、かなりの抑止力になります。
 別な例となりますが、医療ミスで母体を死亡させたとして、産婦人科医が逮捕された事件で、逮捕により地域の周産期医療は崩壊し、その後全国的に産婦人科医の数が減少する一因となったともいわれています。
 ちなみにこの事件は地裁で無罪となった上に、検察は控訴せずに無罪が確定しています。
6.著作権法の場合
 著作権法についても、同様の罰則規定がありますが、著作権は侵害にさまざまな態様があり、罰則のレベルに差はあります。
 それとは別に、いわゆる違法にアップロードされた動画や音楽などをダウンロードした罪については、「その事実を知りながら」その行為を行った場合に、罰則の対象となることになっています。
 特許や商標については、登録内容が公開されていますし、検索も比較的容易に行うことができます。
 営業秘密についても、不正の目的のある者が流出させようとする場合、秘密管理性などについては認識しているのが普通であると思われます。
 しかし、著作権は創作と同時に自然発生するもので、まさに無数に存在します。
 また、特許法などの産業財産権や、不正競争防止法は、産業の発展や経済の健全な発達を目的としていますが、著作権法は、文化の発展を目的としています。
 そのため、条文の作りは似ていても、内容にはおのずと差が出てくるのです。
 無体物である知的財産についての権利も、有体物同様に財産として尊重されなければならないのはもちろんですが、行きすぎは「文化の発展」という法目的を阻害する可能性もあります。
 冒頭でも述べたように、ファイル交換ソフトWinnyの開発者である金子勇さんは、著作権法違反幇助罪で逮捕されてしまいました。
 地裁で有罪、高裁で逆転無罪、最高裁が上告棄却で、逮捕から8年で無罪が確定という長い道のりだったのですが、この間に当時データ通信ツールでは世界最高水準であった日本で、その後技術が停滞した原因ともなったといわれています。
 ちなみに金子さんは、無罪確定の約1年半後に、急性心筋梗塞で急逝されました。
 上述の産婦人科医の件でもそうですが、罰則の適用には慎重であってほしいと思います。
 逮捕されると一生が変わってしまいますから。
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