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お知らせ

2013-11-12
■ iPod訴訟の謎−なぜ争いになったのか−

1.裁判では何を争っていたのか。
 9月26日に東京地裁で、iPodの特許権侵害についての判決が出ました。
 「問題となったのは、iPodの前面にある円形の操作盤『クリックホイール』をめぐる特許。センサーの下にスイッチが取り付けられている構造で、操作盤を指でなぞったり、押したりすることで、画面上で曲や写真などの項目を簡単に選ぶことができる。」
 裁判長は、約3億3600万円の損害賠償を、アップル社に命じました。
 このような特許権侵害訴訟では、審理は2段階に分けて行われます。
 まず、当該特許権への侵害が成立しているかどうか。
 つまり、問題となった製品が、特許発明の構成要件のすべてを実施するものであるかどうかを判断します。
 具体的には、問題の製品の構造などが、特許発明の公報の「特許請求の範囲」に記載された発明と同一であるかどうかについて、逐一検討します。
 ここで侵害が成立すると判断された場合に、損害額の認定に入ります。
 損害賠償は、民法709条に基づき請求されるものですから、ここでは特許権者が侵害によってどれだけの損害を被ったかを計算することになります。
 例えば、特許権者が当該特許発明に係る製品を製造販売していた場合は、侵害によって売上が減少し、そのために減少した利益が損害額となります。
 今回は、特許権者が持っていたのは部品についての特許ですから、iPodが売れたことによって自分の製品の売上が減少したわけではありません。
 このような場合には逸失利益、すなわち本来であれば得られた利益が得られなかったと考えて、その金額を請求することになります。
 侵害品の製造者は本来であれば特許権者からライセンスを受けなければ当該製品を製造販売することができなかったわけですから、特許権者はライセンス契約していれば受け取れたはずの金額を請求することになります。
 侵害品が上げた利益のすべてを請求できるわけではないので、計算はたいへん複雑になります。
2.侵害論
 特許第3852854号の「特許請求の範囲」請求項の記載は以下のとおりです。
【請求項1】
 リング状である軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置されたタッチ位置検知手段と、接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し、前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って、前記プッシュスイッチ手段が配置され、かつ、前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における押下により、前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われることを特徴とする接触操作型入力装置。」
【請求項2】
 請求項1記載の接触操作型入力装置であって、前記プッシュスイッチが4つであることを特徴とする接触操作型入力装置。
【請求項3】
 請求項1または請求項2記載の接触操作型入力装置を用いた小型携帯装置。
 裁判では、上記の請求項の記載を以下のように分説しました。
ア 本件発明1
A 指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され,前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段と,
B 接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し,
C 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って,前記プッシュスイッチ手段の接点が,前記連続して配置されるタッチ位置検出センサーとは別個に配置されているとともに,前記接点のオンまたはオフの状態が,前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されており,かつ,
D 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により,前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる
E ことを特徴とする接触操作型入力装置
F を用いた小型携帯装置。
イ 本件発明2
AないしD 上記アと同じ。
G 前記プッシュスイッチ手段が4つである
E及びF 上記アと同じ。
 その上で、iPodが上記のように分説された発明A〜DとGの技術的範囲に属するか否かについてが争点となりました(その他に、本件特許に無効理由がある否かも争点となりましたが、複雑になるので割愛します)。
 Aから一つひとつ、製品の態様を分析し、分説した構成要件に当てはまるかどうかを検討し、裁判所は上記5つの構成要件すべてについて、iPodが技術的範囲に属すると判断しました。
3.損害論
 さて、侵害は認定されたので、今度は損害額の認定です。
 この場合、特許製品である部品が、侵害品においてどの程度貢献しているかを判断し、ライセンスされていたらどの程度の金額を特許権者が得られていたかを計算することになります。
 ライセンス料率の計算については、「電気音響機械器具(録音装置、再生装置、拡声装置及びそれらの付属品を含む)」の分野の平成4年度〜平成10年度の実施料率(イニシャルなし)の平均値として5.7%であるとされています。
 部品の完成品に対する貢献度の判断に際しては、明細書の「発明の詳細な説明」の記載を勘案したうえで、技術的な貢献度はあまり大きくないと判断されています。
 しかし、「クリックホイール」はiPodの操作性の要と位置付けられ、新機能、セールスポイントとして積極的に宣伝され、好評を博してきたと認められました。
 それらを総合的に考慮して、裁判所は被告の損害として、3億3664万1920円及びこれに対する不法行為の後の日であり、反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成19年3月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を認めました。
 なお、裁判所サイトで閲覧できる判決文では、計算の根拠となるiPodの売上及び裁判所の認めた実施料率は省略されています。
 詳細は http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010?action_id=first&hanreiSrchKbn=07 を開き、裁判所名を東京地方裁判所とし、期日を平成25年9月26日と指定すれば、閲覧することができます。
 事件番号は平成19年(ワ)第2525号、第6312号で、事件名は「債務不存在確認請求本訴、損害賠償請求反訴事件」です。
4.訴訟の謎
 アップル社は判決を不服とし控訴し、特許権者も損害額を不服として控訴しました。
 控訴審で判決がどうなるのかは、知財高裁の判断を待たねばなりません。
 ところで、この訴訟の何が謎か、というと、アップル社の対応なのです。
 上記の朝日新聞記事によれば、「原告の代理人によると、男性はこの技術を1998年に発明した。『この技術を使いたい』とするアップル側とライセンス契約などの交渉を進めたが、まとまらないまま、アップル側はこの技術を使ったiPodを2004年に発売。男性が07年に提訴していた。」とのことです。
 この特許権は、原出願を分割出願して得られたもので、原出願の出願日は98年1月6日にされていますので、実際はもう少し前に発明されていると考えられます。
 代理人が言い間違えたのか、記者が出願日と発明完成日の区別がつかなかったのか、はこの際不問とします。
 原出願は審査請求後、拒絶査定を受けていますが、今回の特許に係る発明はそこから分割され、やはり拒絶理由は通知されましたが、補正を経て、特許されました。
 その後訂正審判によって、さらに技術的範囲を訂正しています。
 この分割、訂正審判は、すでにiPodの「クリックホイール」を標的としています。
 特許権者の立場からしても、もしライセンス契約交渉がなければ、発売されたiPodを見て初めて侵害の疑いを抱き、それからさまざまな準備をしなければならなかったことでしょう。
 しかし、ライセンス交渉があったということで、特許権者側は初めからアップル社の動向をウォッチすることができます。
 出願についても、拒絶理由に何とか対応して、この技術について特許を受けようというモチベーションが高くなります。
 補正、分割や訂正審判にはそれぞれ手間や費用がかかりますから、技術がお金になる見込みが薄ければ、対応を放棄してしまう場合もあります。
 しかしこの場合は、頑張れば大ヒット商品に対して請求が可能になる見込みがあるわけですから、出願人=現特許権者はたいへん頑張りました。
 ライセンス交渉をしたということで手の内を明かした形になったアップル社は、その危険性を考えなかったのでしょうか。
 世界的な企業であり、特許権をはじめとした知的財産権を文字通り「財産」として発展した会社でありながら、なぜ他人の特許権については脇が甘かったのか。
 それが私にとって、今回の表題である「iPod訴訟の謎」なのです。
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